●前作「RESPECT 監督の仕事と視点」がおもしろかったので、続編となる「RESPECT2 監督の挑戦と覚悟」(反町康治著/信濃毎日新聞社)も読んでみた。前作以上の読みごたえ。反町康治元監督が松本山雅FC時代に地元新聞に寄稿していた連載がまとめられている。期間は2016年4月から2019年12月まで。この間に松本山雅はJ2優勝により2度目のJ1昇格を果たし、そしてJ1から降格して反町監督の退任に至っている。
●なにがびっくりかといえば、対戦相手の分析に膨大な時間と労力をかけていること。選手に見せる「5分の映像をつくるのに50時間ぐらいかかる」。監督とコーチ陣で対戦相手のセットプレイでの攻撃、セットプレイでの守備、オープンプレーでの攻撃と守備を分担して検証する。反町監督は相手の直近3試合を見て、去年の得点シーンを点検し、さらにダイジェスト版で今季の全試合を見る。コーチ二人が今季のセットプレー全場面と昨年以前のセットプレーを確認する。そうやって集めた映像から、どこを抽出するかを議論して、試合前に選手に見せる20分の映像を作り出す。PKの傾向も5年前まで遡って確認するし、外国人選手なら海外リーグの映像も探す。もちろん、自分たちのフィードバック用の映像も編集する。まさに映像時代のフットボール。
●あとは反町監督にとって決定的な体験となった、バルセロナへのコーチ留学の話がおもしろい。国際的には無名の監督志望者がいったいどうしてバルセロナになんか行けたんだろうと思うじゃないすか。これは元バルセロナ監督のカルロス・レシャックが横浜フリューゲルスの監督を務めたことがあって、その縁で指導者交流プログラムがあったのだとか。フリューゲルスでプレイ経験のある反町はそれに応募してバルセロナへ飛んだのだが、実際に行ってみると「そんな話は聞いてない」。ああ、いかにもありそう……。それでも粘り強く交渉を続けて、ついに毎日練習に通えるようになったという。1年4か月、蓄えを切り崩して生活費にあて、スペイン語の語学学校に通いながら、家族と離れてひとりでバルセロナに暮らす。選手を引退した後、これほどのエネルギーを注いでセカンドキャリアを切り拓ける人はまれだろう。
June 2, 2021