●29日は久々の浜離宮朝日ホールへ。以前当欄で記者発表の様子をご紹介した反田恭平プロデュースによるジャパン・ナショナル・オーケストラのコンチェルト・シリーズvol.1。岡本誠司のヴァイオリン、八木瑛子のフルート、荒木奏美のオーボエをソリストに立てて、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番、クロンマーのフルートとオーボエのためのコンチェルティーノ、休憩をはさんでシューベルトの交響曲第5番。指揮者なしで、立奏スタイル。注目はクロンマーの未知の作品を聴けるという点、そして反田恭平不在でどんな公演になるかという点。時節柄もあり客席は盛況とはいえなかったが(客層はかなり若い)、同一プログラム2公演は立派。オーケストラと呼べる最小編成ながらこのホールであれば響きにまったく不足はない。奏者間の密なコミュニケーションと自発性という意味では室内楽でもあり、響きの質感ではオーケストラでもある。そして、とにかくうまい。最大18人編成という少数精鋭が最大限に生かされていた。
●前半、ソロとオーケストラが一体となった生気にあふれたモーツァルトもすばらしかったが、クロンマーはかなり強烈な怪作でインパクト抜群。歴史に埋もれつつあるベートーヴェンのライバルのひとりといったぼんやりした先入観から、ソリストの名技に頼ったギャラントな作風を予想していたらぜんぜん違っていた。ほとんどパロディ的に既視感のあるモーツァルト風フレーズが頻出して(冒頭からして「ジュピター」を連想せずにはいられない)、ときにベートーヴェン風だったりもするのだが、楽想の気まぐれで唐突な推移はエマニュエル・バッハ的な多感様式を思わせる。現代人から見るとパスティーシュ風だけど、当時の耳ではどうだったんだろう。もちろんふたりのソリストは大活躍で、見事な快演。
●シューベルトも攻めた演奏で鮮烈。弦楽器32231という編成だったと思うが、生前のシューベルトが耳にしたコンヴィクトのオーケストラもこれくらいのサイズ感だったのだろうか。シューベルトに期待する多面的な要素、みずみずしいリリシズム、朗らかな曲想に潜むダークサイドのパッション、とぼけたユーモア(第3楽章トリオでファゴットの1番と2番が交替しながら演奏する趣向も吉)、青春の輝き、これらが渾然一体となってひとつの世界を作り出していた。アンコールにモーツァルトの交響曲第40番終楽章。
July 30, 2021