●9日、またもミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKI2021のフィナーレコンサートは、原田慶太楼指揮東京交響楽団。盛りだくさんの意欲的なプログラム。前半にヴェルディの「アイーダ」の凱旋行進曲&バレエ音楽、かわさき=ドレイク・ミュージック・アンサンブル「かわさき組曲~アイーダによる」(世界初演)、後半にジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」(カルテット・アマービレ)、オリンピック開会式でも話題を呼んだ吉松隆の交響曲第2番「地球(テラ)にて」(改訂稿/4楽章版)。
●最初の「アイーダ」も雄弁かつ鮮烈だったのだが、前半の主役はその「アイーダ」に触発された「かわさき組曲」。これは障害のある人が積極的に音楽にかかわることのできる環境を作ろうと、川崎市とブリティッシュ・カウンシルが英国のアート団体ドレイク・ミュージックと協働したプロジェクトから生まれた作品。川崎市内の特別支援学校3校の生徒たちと教員、そして日英の音楽家たちがのべ20回ものワークショップを積み重ねたという。最終的にはプロフェッショナルなオーケストレーションの施された作品になっており、作品として十分に楽しめる。ウイルス禍で制約のある中、こうして形にするまでにどれだけのエネルギーがつぎ込まれたかを思うと頭が下がる。演奏の前に原田さんとブリティッシュカウンシルの人が登場して説明をしたうえで、ワークショップの様子を映像で見せてくれた。ていねいかつ簡潔なプレゼンテーション。
●障害の克服という点でつながるのがベートーヴェンで、後半のジョン・アダムズの「アブソルート・ジェスト」はベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏の断片が引用され、これらを素材にジョン・アダムズ流に再構築された機知に富んだ作品。オーケストラに弦楽四重奏が共演するという特異な編成。カルテット・アマービレはチェロ以外は立奏。曲中で弦楽四重奏曲第16番の第2楽章が引用されて、この執拗さが頭にこびりつくのだが、アンコールではそのベートーヴェンのオリジナルをカルテット・アマービレが演奏するという趣向で、これもおもしろい。
●最後は吉松隆の交響曲第2番「地球(テラ)にて」(改訂稿/4楽章版)。1991年作曲で、2002年の改訂稿で4楽章構成になっている。オリンピック開会式で使われたのは終楽章で、作曲者の言葉を借りれば「アフリカ風ボレロ」。そういえばオリンピックでは、「ボレロ」の後で、この「地球にて」が流れる展開だったのでは。オリンピックが「地球にて」で開幕して、フェスタサマーミューザが同じ曲で閉幕するというのはあまりにできすぎた偶然。そう、サマーミューザのほうがずっと先に曲が決まってたはずだから、偶然……なんすよね? アジアからヨーロッパ、アフリカへと地球全体を巡る「疾走する鎮魂曲」(作曲者談)ということで、ウイルス禍に応じた選曲なのだが、作品そのものは巨大なエネルギーにあふれており、とりわけ終楽章は輝かしい。サマーミューザというお祭りの掉尾を飾るにふさわしい作品と演奏。最後は指揮者とコンサートマスター(水谷晃)のふたりでソロ、じゃなくてデュオ・カーテンコール。
●音楽祭がどの公演も中止になることなく無事に開催されて本当によかった。
August 10, 2021