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August 25, 2021

サントリーホール サマーフェスティバル 2021 マティアス・ピンチャー指揮アンサンブル・アンテルコンタンポラン「コンテンポラリー・クラシックス」

●24日はサントリーホールでサマーフェスティバル2021「ザ・プロデューサー・シリーズ アンサンブル・アンテルコンタンポランがひらく ~パリ発 - 『新しい』音楽の先駆者たちの世界~ コンテンポラリー・クラシックス」。演奏会のタイトルが史上最長級なのだが、簡潔にいえばマティアス・ピンチャー指揮アンサンブル・アンテルコンタンポランによる「コンテンポラリー・クラシックス」。腕利き集団アンサンブル・アンテルコンタンポランが予定通りに来日できた。来日アンサンブルを聴けたのはいつ以来なのか……もしかして昨秋のウィーン・フィル以来?
●プログラムは大盛。ヘルムート・ラッヘンマンの「動き(硬直の前の)」(1983/84)、ピエール・ブーレーズの「メモリアル(…爆発的・固定的…オリジネル)」(1985)(ソフィー・シェリエのフルート)、マーク・アンドレの「裂け目(リス)1」(2015~17/19)日本初演、ジェルジュ・リゲティのピアノ協奏曲(1985~88)(永野英樹のピアノ)、ここまでが前半で、後半がマティアス・ピンチャーの「初めに(ベレシート)」(2013)日本初演。終演して駅で電車を待っている間にようやく気が付いたのだが、終わったのが21時40分くらいで、すごく長い演奏会だった。なるほど、休憩時に後半の長さをレセプショニストに尋ねている人がいたのは、それでか。道理で疲れたわけだ。でも楽しかった。曲ごとに編成が異なるため転換にかなり時間を要した。
●ラッヘンマンの「動き(硬直の前の)」はカブトムシの断末魔の痙攣みたいなイメージが、特殊奏法満載のアンサンブルで表現される。が、日本の夏のおしまいにイメージするのはなんといってもセミだろう。毎日のように目にする弱ったセミ、道端でひっくり返るセミ。ラッヘンマン流セミファイナル。そんなイメージで聴くとおかしみが増す。リゲティのピアノ協奏曲はこの日のなかでは随一の楽しさ。躍動感と機知。「コンテンポラリー・クラシックス」という看板にふさわしい殿堂入り感。
●後半、ピンチャー自演となる「初めに(ベレシート)」は、正直なところ聴く前は気乗りしない選曲だった。「コンテンポラリー・クラシックス」というテーマを掲げて自作を演奏するのはヘンな感じだし、30分以上の長い曲だというし、世界のはじまりが題材だというし、きっとうねした調子で切れ目なく音楽が続いて、あっという間に文脈を見失って迷子のように途方に暮れるのでは。そう恐れていたのだが、予想に反してまったく退屈しない。次から次へとイベントが発生して、響きのおもしろさで引っ張られていく。びっしり細部まで描き込まれたパノラマ画のように、情報量と密度が長さを解決してくれた。
●最後はピンチャーのソロ・カーテンコールに。今回のサマーフェスティバル、都合でこの一公演しか足を運べないのだが、「コンテンポラリー・クラシックス」という切り口はいい。言葉の上では矛盾している気もするが、かつて現代音楽と呼ばれたものが時を経て「今日の音楽」ではなくなる以上、そこには時代を超える名作のパッケージがあってほしい。いろいろなものが並列的に存在し、容易には忘れ去られない時代だからこそ、これから来る人のためのある種の「スターターキット」が欲しくなる。