●(承前)アーティゾン美術館のSTEPS AHEAD展にあった、音楽関連を題材とした作品をいくつか。
●まずはギュスターヴ・カイユボットの「ピアノを弾く若い男」(1876)。部屋の隅に置かれた小型のグランドピアノをリラックスした姿勢で弾く男性。ピアノはなんだろう。19世紀後半フランスのピアノメーカーといえばエラールかプレイエルか。以下に一部拡大。
●ブランド名の部分はエラールのロゴに見える。ちょうど同時期(1877年)のエラール製ピアノの写真がPTNAに載っており、鍵盤数は85鍵。このカイユボットの絵画のピアノと同一モデルなのだろうか。手前の最高音の部分がやや見づらいが、黒鍵が2つで終わっているところからするとやはり85鍵か。
●もうひとつ、気になるのはジーノ・セヴェリーニの「金管奏者(路上演奏者)」(1916)。英題は Trombone Player なのだが、日本語は「金管奏者」と訳されている。というのも、これはトロンボーンには見えない。掲示されていた解説文には「その楽器はトロンボーンと言われてきたが、その形体はむしろユーフォニアムのようである」と記されてあった。以下、楽器部分を拡大。
●キュビスムによって抽象化されているとはいえ、たしかにこれはトロンボーンと呼べない。ユーフォニアム/テナー・テューバ/バリトンのようなサクソルン属の金管楽器だろう。ただこれらの楽器名称は国ごとにまちまちだったりして区別は煩雑。1910年代のパリの街角で使われていた楽器をユーフォニアムと呼んでいいのかどうかがわからない(セヴェリーニはイタリア人だが、1906年からパリに移住している)。中央部分にセルパンみたいなうねうねとした管が書かれているのだが、これをどこまで写実的な表現と見るべきかも悩むところ。
●さらにつづく。