●アンソニー・ホロヴィッツの「ヨルガオ殺人事件」(創元推理文庫)読了。こんなにおもしろいミステリを読んでしまうと、次になにを読めばいいのか困ってしまう。前作「カササギ殺人事件」の続編という扱いで、今回も「小説内小説」の趣向がとられている。外枠の小説で事件が起きて、事件を解決する鍵がベストセラーとなったミステリ小説に隠されていることがわかる。主人公はそのミステリ小説の担当編集者だった人物で、これを再読しようと本を開くのだが、そこから読者であるワタシたちもその小説内小説を丸ごと読み始めることになる。入れ子構造が鮮やか。これだけでもかなりアクロバティックなのに、小説内小説のなかで探偵が過去の事件を長々と回想する場面があって、そこは小説内小説内小説みたいになっている。おいおい、「千一夜物語」かよっ!と全力でツッコミを入れたくなる。そんな凝った仕掛けがあるにもかかわらず、読みやすいんだな、これが。
●ミステリとしてはすこぶる古風なスタイルを持ち、小説としては今風のメタフィクション仕立てになっているという離れ業。すさまじい超絶技巧が駆使されているのに、タッチは軽やか。名前がホロヴィッツだけに。
●音楽ネタとしては、モーツァルトの「フィガロの結婚」についての言及がある。登場人物のひとりがスネイプ・モルティングスに「フィガロの結婚」を観にいったという記述があって(舞台はイギリス)、これがいくらか物語にかかわってくる。
●あと、前作と同様「編集者小説」である点も見逃せない。作家が書く編集者小説という時点ですでにひねりが効いているわけで。
September 24, 2021