●練馬区立美術館で「ピーター・シスの闇と夢」(~11/14)を見た。チェコ出身でアメリカに亡命した絵本作家ピーター・シスの原画、アニメーション、スケッチなど約150点を展示。ほとんど予備知識のないままに足を運んだが、想像以上に見ごたえあり。絵本の原画といっても、ここまで緻密に描き込まれているとなると一点一点が持つインパクトは相当に大きい。
●で、シスの絵本はきっと「かべ 鉄のカーテンのむこうに育って」など日本でも知られているのだろうけど、クラシック音楽ファンにとっていちばんなじみ深い作品は映画「アマデウス」のポスターなんじゃないだろうか。「アマデウス」のミロシュ・フォアマン監督もチェコ出身で、実はシスの父親の友人だったのだとか。
●共産主義体制下のチェコスロヴァキアに生まれたシスは、自由に絵を描くこともできなかったし、国外に移動することもできなかった。しかしロサンゼルス五輪に向けて、アニメーターのひとりとしてアメリカに派遣される。そしてアメリカで制作活動を始めたものの、チェコスロヴァキアら東欧諸国が五輪をボイコットしたため、大会前に帰国を要請されてしまう。シスはこれを拒否し、アメリカに亡命を果たす。この頃までの作品を見ていると、タッチは暗く重厚で、一見明るい場面を描いたような絵であっても、どこか抑圧的な重い空気が感じられる。ところが、亡命後にアメリカで結婚し家庭を築き、子供たちに向けた絵を描くと、どの絵にもリラックスしたやさしさが滲み出ている。正直なところ、より目を奪われるのは前者のほうではあるのだが、亡命者の円満なストーリーは人をほっとさせる。
●すべての絵が撮影禁止だったのは少し残念。美術館の周囲は公園になっていて、動物モチーフの彫刻などがたくさん設定されているのが楽しい。たとえば、このクマなど。スティーヴン・キングの小説だったら目を離した隙に動いていそう。
September 28, 2021