●14日はサントリーホールで阪田知樹ピアノ・リサイタル。今年エリザベート王妃国際音楽コンクール4位入賞を果たした気鋭。プログラムは前半がベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」、シューマンの幻想曲ハ長調、後半がリストのピアノ・ソナタ ロ短調と同じくリストの「リゴレットによる演奏会用パラフレーズ」。「月光」の本来の題は幻想曲風ソナタ、これにシューマンの幻想曲、そして真の幻想曲風ソナタともいうべきリストのソナタ、さらにパラフレーズが続くという「ファンタジー・プログラム」になっている。シューマンがリストに献呈した幻想曲と、リストがシューマンに献呈したピアノ・ソナタがセットになっている構成も吉。
●「月光」は全体の幻想テーマに寄せたかのような玄妙な弱音表現が効果的。シューマンの高揚感も見事だったが、圧巻は後半のリストのピアノ・ソナタ。強靭さと切れ味の鋭さを兼ね備えた濃密な世界。途中でバチン!という音が鳴って、弦が切れるアクシデントがあった。どうするんだろうと思ったが、演奏を止めてピアニストはいったん袖に引き、調律師が切れた弦を処理してから、すぐに奏者登場(1本切れても残り2本で音は鳴るのか)。止まったところの少し前から何事もなかったかのように猛然と弾き始めた。このアクシデントでかえって客席も集中度を高めたようで、場内にひりひりした緊張感と熱気が充満して、壮絶な異形のソナタを堪能。大作の後なので、続く「リゴレット・パラフレーズ」はほとんどアンコールみたいなものと思っていたが、キレッキレのテクニックが炸裂。その後、本当のアンコールは、本編の選曲からいってこれしかないというシューマン~リストの「献呈」、そして阪田知樹編曲のバッハのアダージョ(原曲はオルガン曲「トッカータ、アダージョとフーガ」ハ長調 BWV564から)。きわめて密度の濃いリサイタル。
October 15, 2021