●アレックス・オリエの演出で話題を呼んだ新国立劇場の「カルメン」が無料で映像配信されている(2022年1月18日まで)。カルメン役にステファニー・ドゥストラック、ドン・ホセ役に村上敏明、大野和士指揮東京フィルのプロダクション。OperaVisionによる配信ということだが、上掲のようにYouTubeを使用しているのでどこからでも容易にアクセスできる。このOperaVision、ワタシは知らなかったのだが、EUの文化支援プログラムCreative Europeのサポートによるオペラ映像配信プラットフォームなのだとか。国際的に配信されており、字幕は多言語対応。もちろん日本語もあり。
●劇場で観たときも感じたんだけど、このオリエの「カルメン」にはかなり笑いの要素がある。たとえば、ハバネラ。この演出では来日シンガーと設定されるカルメンがマイクに向かって歌っているわけだけど、後ろでメルセデスとフラスキータがバックダンサーになって踊っている。これがむちゃくちゃシュールでおかしかったのだが、そういう場面がいくつもある。で、事前のインタビューでオリエは新たなカルメン像を打ち出すためにイギリスのシンガー、エイミー・ワインハウスからヒントを得たみたいなことを話していたと思うんだけど、そこが妙にフォーカスされて独り歩きすると実際の舞台からずれるかな、と。あまり事前情報に引っ張られないほうが、素直に受け取れるかも。
●で、「カルメン」ってとことん救いのないシリアスな話じゃないすか。だから笑いの要素が必要なんだろうなと感じる。ベートーヴェンの「運命」でも「第九」でも真に偉大でシリアスな古典は笑いの要素を内包するもの。ならば「カルメン」も。いや、もし演出家にそんな狙いはなかったのなら誤読かもしれないんだけど。終場のセレブたちがフラッシュを浴びるシーンで、エスカミーリョひとりが本物のキラッキラの闘牛士姿で現れる場違い感もかなりツボに来た。
October 20, 2021