●29日は浜離宮朝日ホールで「クラシック・キャラバン2021 クラシック音楽が世界をつなぐ ~輝く未来に向けて~ 兵士の物語」。一般社団法人クラシック音楽事業協会の主催で、北海道から沖縄まで全国各地を巡る「クラシック・キャラバン2021」の一公演。「クラシック・キャラバン2021」にはオーケストラ公演も室内楽公演もあるのだが、この日は室内楽公演でストラヴィンスキー「兵士の物語」中心のプログラム。
●といっても、前半は珠玉の小品集と言った趣で、多数の出演者が次々と登場する。18時30分開演で、終演は21時を過ぎる長丁場。最初の挨拶ではじまって曲ごとに司会が入るスタイル。司会は朝岡聡さん。ふだんクラシックの公演には足を運ばない層にも楽しんでもらおうという趣旨の公演なので、こういうフォーマットになるのだろう。前半は千住真理子、梯剛之、水谷川優子、⼭⼝佳⼦、岡昭宏、向野由美⼦、小堀勇介らが出演。もっとも印象に残ったのは千住真理子で、隅々まで磨き上げられたエルガーの「愛の挨拶」とモンティの「チャールダーシュ」を披露。レジェンドのオーラ。
●後半はお目当ての「兵士の物語」。垣内悠希指揮、寺下真理子のヴァイオリン、加藤雄太のコントラバス、イシュトヴァーン・コハーンのクラリネット、廣幡敦子のファゴット、高見信行のトランペット、加藤直明のトロンボーン、野尻小矢佳のパーカッション、高橋克典の語り。特異な編成のアンサンブルだが響きのバランスは理想的で、キレもあってスマート。高橋克典の語りは秀逸。単なる朗読者ではない、役者の語りとはこういうものなのかと感銘を受ける。兵士役と悪魔役の語り分けもわざとらしさがなく、さすが。
●「兵士の物語」の原作はロシア民話「脱走兵と悪魔」だが、「兵士の物語」は原作にはない「望郷」や「物質的な富の空虚さ」といったテーマを盛り込んでいるところが実に20世紀的。この話は以前、ONTOMOに書いた。あと「兵士の物語」初演後にストラヴィンスキーらがスペインかぜに感染したという話題を、東京・春・音楽祭のコラム「好き!好き!ストラヴィンスキー」で書いている。こちらは全部ストラヴィンスキーが自伝に書いている事柄。
November 1, 2021