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November 5, 2021

「ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年」(ショーン・バイセル著/白水社)

●この本は無茶苦茶におもしろいと思った。「ブックセラーズ・ダイアリー スコットランド最大の古書店の一年」(ショーン・バイセル著/白水社)。スコットランドのウィグタウンは「本の街」として知られているそうなのだが、この街の出身である著者が帰省中に古書店ザ・ブック・ショップに立ち寄った。本を買いに行ったはずの著者は、なんと、本屋を買ってしまう。リタイアしたがっていた店主から、店を買い取ることになったのだ。そして古書店主として奮闘し、店は街の名物書店となる。この本に記されているのは、そんな店主の一年間の日記。日々、何人の客が来て、いくら本が売れて、どんなことがあったかを書いている。これがおかしい。
●で、とにかく店主から従業員から客まで、みんな相当にヘンな人たちばかり。店主は古書店に対する最大の敵であるアマゾンを憎悪しており、ショットガンで打ち抜かれたKindleを店に展示している(そういうユーモアのセンスの持ち主)。日本と違って、客はすぐに値切ろうとする(しかもありえないほど大幅に)。探していた本を見つけた客が、店主に値段が高すぎると文句を言う。値引きに応じないと、客は買わずに去る。しかしきっと後でまた戻ってくるだろうと見た店主は、値付けを高くする。思惑通り、その客は戻ってきてしぶしぶ値上げされた本を買う。えー、それってどうなのよ。イヤな客の多さにもびっくり。わざわざ品ぞろえに嫌味を言ってくる客、長時間暖炉のそばで商品の本を何冊も読み続け、それを片付けもせずになにも買わずに出ていく客、こっそり値段を安く書き換える客。そんな客が大勢いる一方、心温まるエピソードも少しはある。今の時代に紙の本を売っていくのは大変なことではあるが、本好きにとってはロマン。ヘンな話も楽しいが、淡々とつづられる日々の業務や店主の本に対する思いなども味わい深い。
●あと、古書文化の厚みという点で、英語圏にはかなわないことも実感。100年以上前の革装の古書が普通に流通しているあたり、活版印刷の歴史の違いを感じる。
●エピローグにしんみりする。
●いつもならこの種の本はKindleで読むのだが、今回はなんだか著者に申しわけない気がして紙の本を買った。ちなみにこの古書店ザ・ブック・ショップのサイトに行くと、破壊されたKindleが店内に飾ってある様子をYouTubeの動画で確認することができる。