November 26, 2021

アレクサンドル・カントロフのブラームス&リスト

●25日はトッパンホールの「エスポワール スペシャル 17」で、アレクサンドル・カントロフのピアノ・リサイタル。2019年のチャイコフスキー国際コンクールで、藤田真央が第2位を獲得した際の第1位がこのカントロフ。ファイナルでチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番を弾いて初めて優勝したことで話題になった。父はジャン=ジャック・カントロフ。フランス出身。
●で、待望の来日リサイタルでどんなプログラムを用意してくれるのかと思えば、ブラームスの4つのバラード、リストの「ダンテを読んで ソナタ風幻想曲」、ブラームスのピアノ・ソナタ第3番ヘ短調。若きスターらしからぬ渋さだが、すさまじく凝縮度の高い2時間だった。ピアノの音がすごい。パワー任せの爆裂サウンドとは違うのだが、鋭く強靭な轟音を持ち、色彩感も豊か。あふれ出るようなパッションの持ち主で、しばしば唸り声というかハミングも漏れ聞こえてくる。ブラームスからリストへと連なる前半は幻想味にあふれ、次第に音楽が白熱して大きなクライマックスを築き上げる。
●後半、ブラームスは異形の大ソナタ。交響曲的な要素とピアニスティックな要素をあわせもつ作品で、これまであまり生で聴く機会がなかったのだが、勢いと熱さのある奏者にふさわしい選曲と納得。シンメトリックな全5楽章で、型に収まらないアンバランスさが魅力。第2楽章はシューマンっぽい。「花の曲」を思い出す。第3楽章のスケルツォはメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第2番終楽章の引用というかリスペクトというか。中間部でコラール主題があらわれるのもメンデルスゾーンゆずりだが、後の交響曲第1番終楽章の歌謡主題を連想させなくもない。第5楽章にもシューマンの香りを感じる。
●アンコールは3曲。ストラヴィンスキー~アゴスティ編の「火の鳥」終曲、ラフマニノフの「楽興の時」第3番ロ短調、モンポウ「歌と踊り」第6番。「火の鳥」は鮮烈。ラフマニノフからタブレット持参。前日にも同一プログラムの公演があったが、両日ともチケットは完売。来年6月にも来日公演があるそうなので、ますます人気が出るかも。

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