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December 1, 2021

「おばちゃんたちのいるところ」(松田青子著/中公文庫)

●「おばちゃんたちのいるところ」(松田青子著/中公文庫)が世界幻想文学大賞の短編集部門を受賞。すごい! 慌てて読む。タイトルがモーリス・センダックの絵本「かいじゅうたちのいるところ」に引っかけてある。「皿屋敷」とか「八百屋お七」とか「お岩さん」といった日本古来の怪談が現代日本風にリミックスされているのだが、いちばんおかしかったのは「エノキの一生」。元ネタの怪談「乳房榎」を自分はよく知らなかったにもかかわらず、大いに楽しんだ。というか、この短篇集を英訳で読んだ人たちはほとんどの元ネタを知らないはずで、それでも強烈に引き付けられるなにかがあったことになる。傑作とはそういうものなんだろう。
●このなかではやや毛色が異なる「菊枝の青春」もよかった。「皿屋敷」が元ネタなんだけど、姫路で雑貨店を営む主人公の菊枝が、メーカーから納品された十枚セットのお皿の数を「一枚、二枚……」と数えるんだけど、九枚しか入っていないという場面から話が始まる。納品書を確認して、うーん、一枚足りないっていう。笑。
世界幻想文学大賞、受賞作でも日本語訳がない作品もいっぱいあるので、こうして受賞作を原語で読めることに新鮮な感動を覚える。まあ、過去には村上春樹「海辺のカフカ」も受賞しているのだが。過去の受賞リストを眺めてみたら、自分が読んだことのある本はけっこう古い作品が多かった。傑作として印象に残ってるのはロバート・マキャモン「少年時代」(1992)、マイクル・ムアコック「グローリアーナ」(1979)、チャイナ・ミエヴィル「都市と都市」(2010)あたり。短篇部門受賞作のアヴラム・デイヴィッドスン「ナポリ」(1979)は、殊能将之編の「どんがらがん」に収められているんだけど、あれってワタシは意味がわからなかった。他人の解説を読んでもなおピンと来なかった名作として、妙な形で記憶に残っている。