●8日は東京芸術劇場で反田恭平と小林愛実のピアノ・デュオ。「VS」と題された同劇場のシリーズ第1弾として企画された公演だが、その後ふたりがショパン・コンクールでともに入賞して話題沸騰したとあって全席完売。オーケストラの定期公演などでは全席完売と言いつつもそこそこ空席があったりすることも珍しくないが、この日のように本当にびっしりと埋まった大ホールの客席を目にするのは久々かも。みんなが固唾をのんで舞台に集中している様子。
●2台ピアノ(一部連弾もあり)の公演を本格クラシック作品のみで組むとなるとそこそこレパートリーが限られてくると思うんだけど、今回のプログラムはまさにこの分野の傑作集といった趣。前半にモーツァルトの2台のピアノのためのソナタ ニ長調、シューマンの「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品」より第3曲「庭園のメロディ」、ルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」、後半にシューベルトの幻想曲ヘ短調、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」。ルトスワフスキ以外はすべて1st小林、2nd反田。のびやかな小林さんを反田さんが支えるといった様子で、息が合っている。モーツァルト、シューマン、シューベルトはいずれもしっとりとした情感にあふれたしなやかな音楽。短い曲だけど、ルトスワフスキでは反田さんの力強く輝かしいタッチが生きていた。
●ブラームスはもっぱら管弦楽版で親しんでいる曲なのでシンフォニックな印象を抱いていたけど、原曲である2台ピアノ版で聴くとピアニスティックな華やかさやふたりの奏者の対話性にも富んでいることに気づく。本来であれば壮麗な終曲に続いて盛大なブラボーが飛ぶところだが、今は小刻みな拍手で讃えるしかない。アンコールをどうするのかなと思ったら、一人ずつ登場してショパン。まず反田さんがマズルカ第34番ハ長調op56-2、続いて小林さんが24の前奏曲より第17番変イ長調。客席に「待ってました」の雰囲気を感じる。さらにふたりで、シューマンの「小さな子供と大きな子供のための12の連弾小品」より第12番「夕べの歌」、第3番「庭園のメロディ」でおしまい。分散退場が念入りだったが、これほどの満席ならしかたないのか。
December 9, 2021