●10日はサントリーホールでカーチュン・ウォン指揮日フィル。新たに首席客演指揮者に就任するシンガポール出身の気鋭が帰ってきた。プログラムはアルチュニアンのトランペット協奏曲(オッタビアーノ・クリストーフォリ)とマーラーの交響曲第5番。グスタフ・マーラー国際指揮コンクール優勝者にふさわしいプログラム。しかしマーラーでもトランペットが大活躍するわけで、前半にソロ・トランペット奏者のクリストーフォリがソリストを務めるとなると後半はどうするんだろう……と思ったら、後半も登場して大車輪の働き。カーチュンと並ぶこの日のもうひとりの主役。
●マーラーの交響曲第5番はあちこちにカーチュン印が刻印されており、ジェスチャーのはっきりした明快な指揮ぶりでメリハリのきいた音楽を作り出す。ダイナミックで剛健なマーラーだが、感傷過多になることはない。細部まで彫琢された前半が特に聴きごたえあり。全曲を通してトランペットとホルンが非常に充実していて、朗々と輝かしい音色を響かせる。対して、弦楽器はマットな質感で控えめ。最後は終わった瞬間にどっと盛大な拍手があるかと思いきや、指揮者がタクトを下ろすのを待ってから(なのか?)。それでも客席はカーチュン大歓迎のムードで、拍手が鳴りやまずに指揮者のソロ・カーテンコールに。前回のベートーヴェン「田園」もすばらしかったが、また聴きたいと思わせるポジティブなエネルギーにあふれている。
December 13, 2021