December 23, 2021

東京都現代美術館 展覧会 クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]

リサイクルされたレコード
東京都現代美術館で開催中の「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」へ。これは音楽ファンのための展覧会ではないかと思うほど、エキサイティングな展示だった。中心となる題材は「言語化された音」というべきか。レコード盤、音楽、オノマトペ、叫び、といったキーワードを軸に、コラージュや映像インスタレーションなど、多彩な作品が並ぶ。たとえば、切り貼りされたレコード盤などはターンテーブル奏者でもある作者ならではの発想。複製音楽のシンボルといえるレコードをハンドメイドの一点物にしてしまう。

ボディミックス
●これはクラシック音楽ファンならドキッとするだろう。名指揮者エーリッヒ・ラインスドルフのオーケストラ名曲集のジャケットにぜんぜん無関係な女性の下半身が映ったジャケットが組み合わされている。これは「ボディ・ミックス」というシリーズ作品で、ほかにもロリン・マゼールやウィリアム・スタインバーグといった指揮者、さらにはクラシック以外のアーティストたちも同様の「犠牲者」になっている。いずれも上半身はたとえば指揮者のような権力を持った男性、下半身は無名のセクシーな女性のジャケットが組み合わされたコラージュ。レコードジャケットがあらわにするジェンダー。

架空のレコード
●遠目には古いレコードジャケットがずらりと並べて展示されているように見える一角があるが、よく見るとなんだかおかしい。こちらは「架空のレコード」。中古レコード屋で二束三文で叩き売られているレコードを大量に集めていた作者は、ジャケットを切り貼りしたり、背景を消したりして、ジャケットを変容させている。右側の作品の下にいるのはレナード・バーンスタイン。これは米コロムビアの「ラプソディ・イン・ブルー」のジャケに使われていた写真じゃないかな。上にくっついてる NEAR YOU ってなんだ?

叫び
●こちらは「叫び」。いくつかの作品で「叫び」がテーマになっているのだが、ここでは日本のマンガから引用されたイメージがコラージュされている。このキャラ、知ってるような、知らないような……。ムンクのポップカルチャー版というか。


●オノマトペをイメージとして用いた作品も多い。この向こう側に真っ暗な部屋で「サラウンド・サウンズ」と題された映像インスタレーションがあって、室内の四方の壁にひたすら色鮮やかなオノマトペが飛び回る。で、英語のオノマトペなのでよくわからないんだけど、たとえば「PON」っていう文字はポンポン弾けるように動くみたいに、飛んでそうなオノマトペは飛び回るし、重々しい感じのオノマトペは下にズシリと落ちている。無音なのに、視覚から「うるささ」が伝わる。
●写真がないのだが、いちばん興味深かったのは「ビデオ・カルテット」と題された映像で、古今東西の映画から音にまつわるシーンを切り出してきて、これらを4つのスクリーンに次々と映し出す。いろんな楽器、歌、さらには叫びや騒音なども出てくるのだが、ちゃんと文脈がある。映像の対位法といっては大げさだが、ときには4つのスクリーンがそれぞれ絡み合って、おもしろい効果を生み出す。なにより音楽として聴けるようにできている。映画の一場面のほかに、ルービンシュタインなど、見たことのある演奏映像もちらほら。

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