●ウイルス禍以来、くりかえし通うようになったのが、東京国立近代美術館の所蔵作品展MOMATコレクション。展示作品はけっこう入れ替わっているし、同じ作品を何度も見るのも楽しい。一時、演奏会が減ったのでその代わりとしての展覧会でもあり、また感染の心配がほぼない娯楽でもあったわけだが、場所の居心地のよさがすっかり気に入ってしまった。企画展が混雑していても、こちらは密にならず快適。
●で、今回、「純粋美術と宣伝美術」という小特集のコーナーがあって、そこで展示されていたのが1953年、ギーゼキングの初来日公演のプログラムノート(上)とポスター(右)。作者は北代省三。ポスターの紙面中段に波打つように白鍵と黒鍵のモチーフが並べられ、その上下に曲線によって構成される抽象的な図形が配置される。上がピアノ、下がピアニストと見れば、ステージを天上から俯瞰した構図になる。デザインとしてのおもしろさもさることながら、ポスターの情報量の少なさにも感心する。演目も書いてないし、ギーゼキングとは何者かを伝えるキャッチも一切なし、よく見ると年号すら入っていない。主催は読売新聞社、会場は日比谷公会堂。最下段にすごく小さくPar entente avec M.ANDRE PUGLIAと記されている。このAndré Pugliaという人はギーゼキングのマネージャーらしいのだが、なぜそんな情報は載っているのか。
●それにしても演奏会のプログラムノートが後世に美術館でガラスケースに収まって展示されているというのもすごい話。現在、製作されるプログラムノートでそんな可能性を有するデザインがあり得るのかどうか。
●こちらは新収蔵作品の冨井大裕「roll (27 paper foldings) #10」。市販の27色折り紙セットでできた「彫刻」なのだとか。まるめた折り紙をホチキスで留めてあるのだが、どう組み立てるかを記した指示書が用意されており、実際に手を動かして作るのはだれでもよいのだという。異彩を放っていた。