●18日は東京文化会館で東京・春・音楽祭の開幕公演、リッカルド・ムーティ指揮東京春祭オーケストラ。昨年は「マクベス」の記念碑的名演もあったが、今年のムーティはオーケストラ2公演のみ。プログラムは前半にモーツァルトの交響曲第39番、後半にシューベルトの交響曲第8番「未完成」、イタリア風序曲ハ長調。東京春祭オーケストラは読響の長原幸太がコンサートマスターを務め、N響をはじめとする各地の楽団のメンバーとソリストたちが集った若手中心のオーケストラ。
●最初にムーティがマイクを持って登場。音楽祭の開幕へのお祝いのメッセージを述べ、続いて現在のウクライナ情勢について言及し、ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」の一節「私は叫びたい、平和を!」「私は叫びたい、愛を!」を引用して、困難な中で苦しんでいる人々のために演奏すること、若い音楽家たちの存在は未来への希望であることを述べた。
●モーツァルトの第39番は昨年聴いた「ハフナー」「ジュピター」と同様に、すっかり角の取れた柔和で滑らかな表現。彩度をぐっと抑えた水墨画のようなモーツァルトといった様子で、淡く、どこか儚い。第1楽章の序奏がまるで追悼の音楽のように聞こえたのは、先のスピーチがあったからなのか。ムーティは80歳。時の流れを感じずにはいられない。
●後半のシューベルト「未完成」は一転して苛烈な音楽に。重たく粘りのある表現で、ときには荒々しい。暗いロマンがほとばしる。この日の圧巻は最後のイタリア風序曲。この曲が本当にイタリア・オペラの序曲のように聞こえたのは初めて。ロッシーニ風というかドニゼッティ、なんならヴェルディまで未来から外挿されたような血湧き肉躍る音楽で、これからなにが始まるのかとワクワクしてしまう。いや、始まるのではなく、これで本日はおしまいなのだが!
●楽員が退出しても拍手が止まず、ムーティのソロカーテンコールに。最前列で手を差し出すお客さんに握手をしたりとマエストロはサービス精神旺盛。2日間の公演のために来日してくれたことに感謝するしか。
March 22, 2022