●1日は東京文化会館大ホールで東京・春・音楽祭のブリテンのオペラ「ノアの洪水」(演奏会形式)他。加藤昌則の企画構成・指揮・解説により「ベンジャミン・ブリテンの世界 IV」として開催されたもので、これまで2度の延期を経て今年ついに実現。以前は石橋メモリアルホールの開催予定だったように記憶しているんだけど、なんと大ホールでの開催に。
●「ノアの洪水」は少し特殊な作品で、劇場での上演ではなく、教会で信徒と子供たちが演ずることを前提に書かれている。アマチュアたちが参加するものであり、本来の形としては聴衆はおらず、そこにいる人たちがみな参加するものなのだとか。そのために賛美歌を歌う場面が出てきたり(教会だから賛美歌ならみんな歌える)、弦楽器は習熟度別にパートがわかれていて、いちばん易しいパートは開放弦のみで弾けるようになっていたりする。編成も独特で、弦楽器以外にはリコーダー、ハンドベル、マグカップ、ピアノ、オルガン等々。配役は神の声に玉置孝匡、ノアに宮本益光、ノアの妻に波多野睦美、加藤昌則指揮BRTアンサンブル、NHK東京児童合唱団他。印象的なソロがあるチェロは辻本玲。そのほか、要所には名だたる名手たちも参加する。もしかしたらこれが日本初演(どこかの教会などで上演したかもしれないけど公式記録としては初めてという話)。
●で、題材がノアの方舟の話そのものなので、演奏会形式となれば実質オラトリオのようなもの。アマチュア参加による書法上の制約があっても、やはりそこはブリテンの音楽そのもので、ぐいぐいと引き込まれる。彩度低めの渋く力強い高揚感は格別。洪水オペラであり海のオペラでもあるという点で、「ピーター・グライムズ」や「ビリー・バッド」を連想する。最後にハンドベルが虹を表現して、神が虹の契約によりノアたちを祝福する形で終わるのは「創世記」の通りなんだろうけど、オペラだと思って観ているとワーグナー「ニーベルングの指環」を思い出す。「ラインの黄金」は虹で終わり、「神々の黄昏」で炎と洪水で神代が終わりを告げるのだったな、と。
●この日は後半の「ノアの洪水」に先立って、前半にブリテンの民謡集が演奏された。波多野睦美のメゾ・ソプラノ、加藤昌則のピアノとレクチャー。レクチャーが見事。ブリテンの民謡編曲の肝をわかりやすく教えてくれる。後半への予習にもなっていて、練られた構成に脱帽するしか。
April 4, 2022