●6日は新国立劇場でリヒャルト・シュトラウスのオペラ「ばらの騎士」。くりかえし上演されているジョナサン・ミラー演出による人気プロダクション。前回観たのは2017年のウルフ・シルマー指揮公演だったが、今回は新国立劇場初登場のサッシャ・ゲッツェルが指揮。ピットには東京フィル。元帥夫人にはこれがロールデビューとなるアンネッテ・ダッシュが招かれ、あとはすべて日本人キャストで小林由佳のオクタヴィアン、安井陽子のゾフィー、妻屋秀和のオックス男爵、与那城敬のファーニナル他。ミラー演出は時代設定を初演当時の1912年に置き換えるというものだが、舞台も人物造形もオーソドックスで、初めてこのオペラを観る人にも安心。美麗な舞台装置はシュトラウスの陶酔的な音楽にふさわしい。全体にドラマの説得力よりも声楽的な充実が前面に出ていた感があって、やはり終幕の三重唱以降が圧巻。奇跡の瞬間が訪れる。
●同じように時代を初演時に置き換えた演出にロバート・カーセンのプロダクションがあったけど(METライブビューイングで観た)、あちらが「開戦前夜」を強調しているのに比べれば、ミラー演出は穏健で、言われなければそう気づかないかもしれない。でも現在の状況下であれば、これが戦時のオペラであることを普段よりも意識せざるをえない。なんといってもファーニナルは軍需で財を成したのだから。オクタヴィアンの未来がオックス男爵であろうことはよく指摘されるところだが、ミラーは遠からずオクタヴィアンは戦場でたおれ、ゾフィーが若くして未亡人になることを予感している。このオペラのテーマである「時の移ろい」ゆえに、オクタヴィアンにはオックス男爵というお気楽な未来はやってこない。
April 7, 2022