●2020年10月中旬から施設整備のために休館していた上野の国立西洋美術館が、4月9日よりリニューアルオープンしている。東京・春・音楽祭のミュージアム・コンサートには惜しくも間に合わず、今年は別会場で開催されたのだが、音楽祭の関連作品として展示されていたのが、上掲のアンリ・ファンタン=ラトゥールのリトグラフ「ローエングリン前奏曲」(第二版)。跪く騎士の前に大勢の天使たちがいる。中央の天使が掲げるのは聖杯(グラール)。えっ、ワーグナーの「ローエングリン」に天使なんか出てこないぞ、と言いたくなるかもしれないが、これは冒頭の前奏曲の場面なんである。あの精妙な音楽は聖杯を持って天から降りてくる天使たちを描いている。ワタシの理解では手前の騎士はパーシヴァルである(聖杯を発見した騎士はパーシヴァル、ガウェイン、ガラハドの3人)。そしてパーシヴァルの息子がローエングリンだ。
●こちらはティツィアーノ・ヴェチェッリオと工房による「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」。シュトラウスのオペラ「サロメ」でおなじみのモチーフであるが、注目すべき点はサロメが豊満だということ。オペラ歌手が演じるサロメについて美少女らしさの欠如を嘆く声を耳にすることがあるが、それはビアズリーの絵に影響されすぎているのかもしれず、このふっくらとしたサロメの「ふん!」と鼻息が出てきそうな勝ち誇った表情にこそサロメらしさがあるのではないか。ほとんど敵将の首を討ち取った武将のような顔つきのサロメ。(つづく)
April 26, 2022