May 16, 2022

METライブビューイング ヴェルディ「ドン・カルロス」新制作

●13日は東劇のMETライブビューイングでヴェルディの「ドン・カルロス」新制作。デイヴィッド・マクヴィカー演出による荘厳かつ重厚な舞台を味わう。全5幕、フランス語版で休憩を2回はさんで5時間近い長丁場。これだけの長さだと映画館とはいえ、かなり気合を入れて臨むことになる。愛、嫉妬、友情、王の孤独、旧教と新教の対立、宗教権力者の無慈悲さ、強権的社会vs民衆のための社会など、いろんなテーマが詰め込まれていて、ほとんどオペラというもののキャパシティを超えているんじゃないかという欲張り大作。幕間インタビューでも少し触れられていたが、時節柄、今だから切実さを感じられるテーマとも言えるし、逆にどんな時代にでもふさわしい普遍的なテーマとも言える。幕間にはウクライナ慈善コンサート映像の様子も。
●歌手陣はさすがのMETという強力布陣で、マシュー・ポレンザーニ(ドン・カルロス)、ソニア・ヨンチェヴァ(エリザベート)、ジェイミー・バートン(エボリ公女)、エリック・オーウェンズ(フィリップ2世)、エティエンヌ・デュピュイ(ロドリーグ)、ジョン・レリエ(大審問官)他。このオペラで人物像として唯一共感可能なのはフィリップ2世。残忍でもあり孤独でもある苦悩する権力者。エボリ公女はアイパッチを付けて登場。これは史実の裏付けがあるそうで、ここぞというところで外して傷痕をあらわにする演出がドラマティック。水戸黄門の印籠のよう。そしてエボリ公女って女ヴォータンだとも思った。権力と恋を好む。
●テーマのシリアスさに対して、リアリズムを欠くのがこのオペラでもある。第1幕は描かなくてもいい前史を描いている感は否めない。カルロスとエリザベートは出会いの場面で熱烈に高まり、すぐに結婚相手はカルロスの父親のほうだとわかって失望する。まあ、残念だとは思うけど、ついさっき初対面だった人なんだからさ。少なくとも男のほうは「ドンマイ、ドンマイ。さ、切り替えて行こうぜー」くらいで立ち直ってほしい気もする。いや、立ち直ったらそこでオペラは終わるんだけど。あと、最後の場面。あれはカルロスが夢想した幻と解して観るしかないのかなー。
●指揮はネゼ=セガンの代役としてパトリック・フラー。キレのある壮麗なサウンドをオーケストラから引き出していたのが吉。
●そうだ、東劇の椅子が新しくなっていたんすよ! 快適度アップ、これで長丁場も安心!?

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