May 23, 2022

ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団のモーツァルト&ベートーヴェン

東京芸術劇場
●20日は東京芸術劇場でファビオ・ルイージ指揮N響。この池袋Cプロは「休憩のない約60分~80分程度の公演」で19時30分開演と遅いのだが、実際には18時45分から「開演前の室内楽」が15分程度あるため、これを聴こうと思うと普通より開演が早い。しかも本編プログラムが序曲+協奏曲+交響曲の3点セットだったので、実質的にはたっぷり。お得。開演前の室内楽はモーツァルトのクラリネット五重奏曲より第1楽章。伊藤圭のクラリネット、白井篤、田中晶子のヴァイオリン、谷口真弓のヴィオラ、西山健一のチェロ。小さなN響といった趣。トークあり。この時間帯は客席への出入り自由で、リラックスした雰囲気で聴けるのが吉。
●で、本編はモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」序曲、ピアノ協奏曲第20番ニ短調(アレクサンドル・メルニコフ)、ベートーヴェンの交響曲第8番ヘ長調。メルニコフは冒頭、管弦楽のみの提示部から演奏に参加して、ソロが始まると自由奔放、独自のカデンツァなど表現意欲にあふれユニーク。これだけでも十分にびっくりだったが、アンコールに弾いたモーツァルトの幻想曲ニ短調はさらにエキセントリック。風変わりなアーティキュレーション、意外性のあるダイナミクス。うーん、モーツァルトを聴いているというよりはメルニコフを聴いているとしか……と思っていたら、コーダの途中で弾くのを止めてパッと立ち上がって、おしまい。この曲、おしまいの部分はモーツァルト本人が書いておらず、他人の補筆で演奏されるのが一般的だが、その補筆部分を演奏せずに止めたということなんだろう。勢いよく立ち上がったから即座に拍手が出たけど、事情のわからないお客さんは困惑したはずで、リサイタルならともかく協奏曲のアンコールでそれをやるとは。ニ短調でそろえる趣旨の選曲かもしれないが、ずいぶんトリッキー。
●ベートーヴェンの交響曲第8番は端正ながらも推進力にあふれた快演。ユーモアの要素も十分。ティンパニは見慣れない方が客演。オーケストラのサウンドがすこぶる美麗で、聴き惚れる。当初、芸劇とN響の組合せを奇妙に感じたけど、今やこのホールで聴くN響は本当に充実した響きを聴かせてくれる。といっても、芸劇は今シーズン限りなのだが。惜しい。

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