●11日は東京芸術劇場でステファヌ・ドゥネーヴ指揮N響。オール・フランス音楽プログラムで、前半にデュカスのバレエ音楽「ペリ」(ファンファーレつき)、ラヴェルの歌曲集「シェエラザード」(ステファニー・ドゥストラックのメゾ・ソプラノ)、後半にドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」とフロラン・シュミットのバレエ組曲「サロメの悲劇」。新鮮味があって、すばらしいプログラム。どの曲も物語性があるわけだけど、不老不死に執着する王の話で始まって、預言者の首を切った王の話で終わる。
●デュカスの「ペリ」はおまけで作られたファンファーレのほうが本編より親しまれている感があるが、隅々まで磨き上げられた美麗な作品で、洗練度はラヴェルの主要管弦楽曲と変わらない。ラヴェルより一段と官能性が強く、いくぶん含羞を感じさせるか。N響は普段より開放的で華麗なサウンド。この曲、題材となったペルシャの伝説がもう少し知られていたら、もっと演奏されていたはず。
●ラヴェル「シェエラザード」を歌ったのはステファニー・ドゥストラック。声量十分で表現は雄弁。この名前、どこかで覚えがあるような……と思ったら、新国立劇場「カルメン」題名役ではないの! 納得。
●フロラン・シュミットのバレエ組曲「サロメの悲劇」、組曲版が編まれる以前の黙劇としての初演は1907年、パリにて。ということは、シュトラウスの「サロメ」の2年後。そしてシュトラウスの「サロメ」のパリ初演と同年。どうしたって比較したくなるが、そもそものストーリーが違っていて、シュトラウスの「サロメ」はオスカー・ワイルドだが、フロラン・シュミットの「サロメの悲劇」はそうではないのだとか。曲目解説によれば、ヨハネがサロメの裸体をマントで覆い隠したがために、ヘロデが怒ってヨハネの首を切らせたという展開になっていて、なんというか、ヘロデの役どころがショボい……。どう考えてもオスカー・ワイルドのほうがおもしろい。ともあれ、音楽は案外とエンタテイメント度が高く、派手。ドビュッシー、スクリャービンを連想させ、ストラヴィンスキーを予告する。後味爽快、サロメなのに。
●以前も紹介したけど、ティツィアーノ・ヴェチェッリオと工房による「洗礼者聖ヨハネの首を持つサロメ」。国立西洋美術館の常設展で見ることができる。生首以上に目をひくのはサロメの豊満さ。ヨハネは痩せ細っているが、サロメはたっぷり食べている。ライスは大盛りで。そんな声が聞こえてきそうなサロメ。
June 14, 2022