●2011年2月にすみだトリフォニーホールで開催されたフランス・ブリュッヘンと新日本フィルの「ベートーヴェン・プロジェクト」のライブ録音が「ベートーヴェン交響曲全集」としてCD化された。当時のプログラムノートに寄せた小さな拙稿が解説書に転載されている。このシリーズは記憶に残るコンサートだった。当時の新日フィルはブリュッヘンやハーディングやメッツマッハーらを呼んで、かなり尖がった活動をしていたっけ……。今とはずいぶん楽団のカラーが異なる。ブリュッヘンとの活動がこうして録音で残ることになったのはありがたいこと。
●ひとまず、気になるところだけをいくつかピックアップして聴いてみたが、なんとも生々しく、懐かしい。「英雄」冒頭、お客さんの拍手がまだ続いているなかで、いきなりブリュッヘンは意表を突いて振り始めたんだけど、その様子もそのまま収録されている。あれは、ゆっくりゆっくり指揮台に向かって歩いてきて、椅子に腰かけるのかなと思わせておいて、座らずにシュッ!って腕を振ったから、拍手と重なったんすよね。絶対に拍手に被せるっていう決意を感じた。そして、始まった「英雄」の巨大なこと。
●荒れ地のような寂しげな「田園」も思い出深い。律義なノンヴィブラート。ブリュッヘンの手のひらの大きさ。2011年2月、大地震の前月のことだった。
June 16, 2022