●そういえば、先日東京国立近代美術館でゲルハルト・リヒター展を観にいった際、常設展に神原泰の「スクリアビンの『エクスタシーの詩』に題す」(1922)を見つけた。スクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」をレコードで聴いたときの印象がもとになって描かれているという。なるほど、この絵柄は「法悦の詩」っぽいといえばそれっぽい。で、制作年に「1922年」とあるのを見てギクッ。えっ、1922年にもう「法悦の詩」の録音を聴けたのか! SPの電気録音は1925年以降だから、アコースティック録音による「法悦の詩」があったわけだ。
●で、演奏者はだれだったんだろうと思ってささっと検索してみた限りでは、少なくとも1920年にアルバート・コーツ指揮の録音があったようだ(参照)。大編成、しかも切れ目のない単一楽章のこの曲をあえて選ぶとは、なんという野心的なレコーディング。それにしても今から100年前にすでに録音で「法悦の詩」を聴いている人たちがいたというのは直感的にはなかなか気づかないところ。そして1920年の録音再生技術で伝わる音の色彩感は現代の録音に比べて格段に乏しいはずなのに、この絵を見るとそんな感じがぜんぜんしない。
July 8, 2022