●12日はサントリーホールで出口大地指揮東京フィル。2021年ハチャトゥリアン国際コンクールで第1位を獲得した出口大地が定期演奏会に抜擢され、オール・ハチャトゥリアン・プログラムで登場。これは快挙。バレエ音楽「ガイーヌ」より、ヴァイオリン協奏曲(木嶋真優)、交響曲第2番「鐘」という特盛プログラム。東フィルの定期は同一プログラムを東京オペラシティ、オーチャードホール、サントリーホールで3公演開催するという方式なのだが、3公演目のサントリーホールでも客入りはまずまず。客席にもオーケストラ側にも若い指揮者を盛り立てようというムードを感じる。今年は日本とアルメニアの外交関係樹立30周年なのだそうで、オール・ハチャトゥリアンをやるなら今しかないというタイミングでもある。
●「ガイーヌ」からは5曲。鮮烈でエネルギッシュ、土の香りはほどほどで正攻法のスペクタクル。「ガイーヌのアダージョ」を聴くと条件反射的に映画「2001年宇宙の旅」を思い出してしまう。この曲に宇宙空間の孤独を読みとったキューブリック恐るべし。「レズギンカ」は過去の爆演の印象が強いが、本来これがノーマルか。ヴァイオリン協奏曲は圧巻。木嶋真優の独奏が切れ味鋭く、強烈。ソリストの力で作品がさらなる高みへと達した感すらある。ソリスト・アンコールはまったく知らない曲だったが、コミタス(木嶋真優編)の「クランク 〜イグデスマン・ファンタジー」という曲なのだとか。これも鮮やかな技巧。
●前半が終わった時点でかなりの充足度だったが、後半はさらなる大曲で、交響曲第2番「鐘」。前半の民族色の強い作品とは一味違ってシリアスで、ショスタコーヴィチ寄りの作風というか、第二次世界大戦を反映したソ連発の戦争交響曲としての性格を持つ。現在の状況を思うと、その受け止め方は複雑ではあるが……。第3楽章冒頭、ピアノとハープが刻む序奏が印象的。葬送行進曲、あるいは哀歌。終楽章は少し前に公開されたハチャトゥリアンを描いた映画「剣の舞 我が心の旋律」のエンディングテーマとして高らかに鳴らされていた曲だけど、こうして生演奏で聴く機会がやってくるとは。ブラスセクションの音色が輝かしい。壮大な幕切れに客席は拍手喝采。曲が終わった時点で午後9時40分だったので、すぐに大勢のお客さんが席を立ったのはしかたがない。
●出口大地は左手に指揮棒を持っていた。左手に指揮棒を持つ著名なマエストロといえば、パーヴォ・ベルグルンド、ドナルド・ラニクルズあたりか。世の中に左利きの人はそう珍しくないが、左手に指揮棒を持つ指揮者はかなり珍しいので、実際には左利きであっても右手に指揮棒を持つ人が多いのだろうということに思い当たる。
July 13, 2022