September 12, 2022

ファビオ・ルイージ指揮N響のヴェルディ「レクイエム」~ファビオ・ルイージ首席指揮者就任記念

ファビオ・ルイージ N響
●10日はNHKホールでファビオ・ルイージ指揮N響。ルイージの首席指揮者就任記念公演であり、今シーズンの開幕公演。会場は改修工事を終えたNHKホールで、ずいぶん久しぶり。原宿駅から開放的なムードの代々木公園を通って歩く。プログラムはヴェルディ「レクイエム」。就任披露といっても時節柄そう祝祭的なムードには浸れないので、今にふさわしい選曲か。ルイージはこの曲を「哀悼についての作品ではなく、希望と美に満ちた作品」とも語っている。
●冒頭はホールの空調の音にかき消されそうなくらいの繊細なピアニッシモ。そこからみるみるうちに大きなドラマが立ち昇る。かつて聴いたことのないほど細部まで神経の行き届いた、緻密でしなやかなヴェルディだったと思う。新国立合唱団による合唱もきわめて高水準で、オーケストラと完全に融合してひとつの音楽を作り出す。そして独唱者陣が超強力。ソプラノにヒブラ・ゲルズマーワ、メゾ・ソプラノにオレシア・ペトロヴァ、テノールにルネ・バルベラ、バスにヨン・グァンチョル。この雄弁な独唱陣のおかげで際立つのが、この曲のレクイエムとしての特異性。一幕物のオペラを演奏会形式で聴いているとしか思えなくなる。歌詞は典礼文であってどこにもストーリーがないはずなのに、重厚な人間ドラマに触れたかのような錯覚を起こす。いや、錯覚ではないのかも? 「ディエス・イレ」は壮大ではあるけど、決してスペクタクルに偏重していない。
●今季より終演後のカーテンコールの撮影が許可されることになった。他の在京オーケストラに先駆けての英断で、大吉。第一に、写真をSNSに載せることで拡散し、特に若い層に対してオーケストラの存在を知ってもらうきっかけができる。これまでコンサートホールは極端に「閉じた存在」で、その内側の熱狂がなかなか外側に伝わらず、この状態で「オーケストラの公共性」云々と言ったところでなあ……と居心地が悪かったのだが、SNSにたくさん写真が載ればひとつ「窓」ができる。第二に、写真は自分自身への最高のお土産になる。Googleフォトは毎日のように「n年前の今日の思い出」をスマホで見せてくれるが、こんなにも演奏会に足を運んでいるにもかかわらずその痕跡が不自然なほどない(まるでアリバイ工作でもしているかのように)。スマホ時代のライフログに、コンサートも加わってくれるとうれしい。