●2日はミューザ川崎でサイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団。すでにロンドンを離れバイエルン放送交響楽団に移ることが決まっているラトルの音楽監督として最後の来日。というか、「オーケストラの来日公演」そのものの貴重さが高まってる今、期待度はマックス。プログラムはワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死、シュトラウスのオーボエ協奏曲(ユリアーナ・コッホ)、エルガーの交響曲第2番。エルガーの第2番はなかなか聴けない。弦は通常配置。オーケストラの入場がアメリカのオーケストラと同様、分散入場で(そんな言葉ある?)、いつの間にか全員そろっている方式。このスタイルは好き。客入りは上々。
●たいへんすばらしい演奏で、同コンビの前回来日時以上の満足度。ロンドン交響楽団のサウンドは解像度が非常に高く、澄明で輪郭のくっきりしたサウンド。強奏時も見通しがよくクリア。ラトルのもと、ひとつにまとまって集中度も高い。LSOってこんなにも上質なオーケストラだったっけと思ったほど。最初の「トリスタンとイゾルデ」から名演。ドイツ的な重厚さとはまったく異なる、爽快なドライブ感に貫かれたドラマティックな演奏。ラトル自身が楽しんでいる様子。シュトラウスのオーボエ協奏曲では首席奏者のユリアーナ・コッホがソロを担う(ローター・コッホと縁があるのかどうか、わからず)。この曲、なぜか今年はたくさん演奏されている。オーボエの音色が甘くややスモーキーで、濃厚なテイスト。最初の長いソロを吹き終えたところで「ふー」と大きく深呼吸していたのが印象的。酸欠になりそうな曲だけど、出てくる音はなめらか。ソリスト・アンコールにブリテンの「オヴィディウスによる6つの変容」から第1曲「パン」。
●後半、エルガーの交響曲第2番はきびきびとした第1楽章で始まって明快。この曲、第1番の直線的なドラマとは違って、さまざまなエモーションが複雑に絡み合う。高貴さ、ノスタルジー、哀悼、歓喜、ユーモア、諦念……。来日前の記者会見でラトルが「エルガーがもしウィーンに生まれていたら、きっとマーラーになっていた」と話していたけど、この日のプログラムはワーグナーで始まってシュトラウスとエルガーに分岐する後期ロマン派プログラム。終楽章が終わった後、普通なら沈黙が訪れそうなところだがこの日はすぐに拍手が出たのはやや意外だった。アンコールの前にラトルから日本語を交えたメッセージ。「ブラボー、ミューザ」とホールの音響を称賛。以前からラトルはミューザ川崎の音響を絶賛しており、今回も満足そう。こちらのアンコールもお国ものでディーリアスのオペラ「フェニモアとゲルダ」から間奏曲。絶品。最後はラトルのソロカーテンコールでスタンディングオベーション。
October 3, 2022