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October 13, 2022

「マクロプロスの処方箋」(カレル・チャペック著/阿部賢一訳/岩波文庫)

●最近、岩波文庫からカレル・チャペックの戯曲「マクロプロスの処方箋」が刊行されたので、さっそくゲット。こういう本は買えるときに買っておかないと。チェコの作家カレル・チャペックといえば世間的にはなんといっても「ロボット」という語の発案者だが、クラシック音楽ファンにとってはヤナーチェクのオペラ「マクロプロスの秘事」(マクロプロス事件、マクロプロスのこと)の原作者だ。
●物語のテーマは不老不死。相続を巡る長年の裁判が続いている場面に、第三者の美貌のオペラ歌手がやってきて、だれも知るはずのない遺言書のありかを教える。どうしてそんなものの存在を知っているのか、皆が困惑するが、実はこの歌手は父親が作った秘薬により300年以上にもわたって、名前を変えながら生き続けているのだった。彼女はそのマクロプロス家の秘薬の処方箋を探し求めていた。処方箋は見つかるが、人々はこれをどう扱うべきかを議論する……。不老不死が得られるとしたら、だれがその恩恵にあずかるべきなのか。そもそもそれは欲しいものなのか。晩年のヤナーチェクのカミラ(38歳年下の人妻)に対する熱愛を思い起こせば、いかにもヤナーチェク好みの題材という気もする。
●些末なことだけど、オペラのタイトルは「マクロプロス事件」と記されることも多い。が、どうもこの訳題はまるで殺人事件でも起きたかのような重々しさで、中身に合致していない。だいたい事件なんて起きてないし。直訳すれば「マクロプロスのこと」のようだが、その意味するところをもう少し具体的に訳出すれば「マクロプロスの秘事」とか「マクロプロスの秘密」になるだろうし、もっと焦点をビシッと当てるなら本書のような「マクロプロスの処方箋」がいいと思う。オペラは実演の際に訳題をアップデートすることもできるんだけど、過去に発売されたパッケージメディアの題を変えられないのが泣きどころ。