October 25, 2022

ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団のハイドン「無人島」

●23日は大阪音楽大学のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団定期演奏会でハイドンのオペラ「無人島」(演奏会形式)。指揮は牧村邦彦、歌手陣は4名のみで大賀真理子(コスタンツァ)、内藤里美(シルヴィア)、中川正崇(ジェルナンド)、西村圭市(エンリーコ)。合唱も入らず、オーケストラも小編成で、エステルハージ侯の聖名祝日を祝うために作曲された小規模オペラ。演出は井原広樹。舞台奥にオーケストラが陣取り、前方で衣装をつけた歌手が演じるスタイル。もともと舞台設定はずっと無人島なので、舞台装置などなくても不都合は感じない。オーケストラは弦楽器を中心に好演、ハイドンの明朗な音楽を生き生きと伝えてくれた。HIPではなく、20世紀の伝統に根差したスタイル。歌手陣も役柄にふさわしい声とキャラクター。特に内藤里美のシルヴィアがいい。軽快。
●めったに上演されない作品だが、作曲は1779年でハイドンは40代後半。モーツァルトのオペラでいえば「イドメネオ」の2年前。台本作家はメタスタージオ。まだこのくらいだと近代的な人間ドラマとは異なって、先日のヘンデル「ジュリオ・チェーザレ」などと同様、「シチュエーション付き歌合戦」といった趣で、終場を除いておおむね歌手が交互に歌う。一方でレチタティーヴォ・アッコンパニャートが多く、オーケストラが果たす役割が大きめ。ハイドンは本質的には交響曲のような構築感のある音楽でこそ本領を発揮する作曲家だとは思うが、オペラやオラトリオになると少し自由さを楽しんでいるというか、肩の力が抜けて、また別な顔を見せてくれる。ある意味ドラマの進行から離れたところで筆が冴えるような感もあって、疾風怒濤風のシンフォニアや、祝祭的なフィナーレが印象的。
●ちなみにこの物語、無人島に置き去りになった姉妹二人が、姉の夫によって救出されるというストーリーなのだが、姉妹は無人島で13年も生きていたっていう設定なんすよ! すごくないすか。しかも妹のほうは島の動物たちと仲良くなって天真爛漫に育っている。当時の欧州の宮廷的な自然観のあらわれと言うべきか。現代的な観点からすると、手付かずの自然は獰猛そのもの。姉妹は上陸したその日から容赦のないサバイバルに晒される。火をおこし、飲料水と安全な住居の確保をしながら、寒さや暑さ、獣や昆虫、動物由来の感染症、病気、怪我、嵐など無数の危機を乗り越えながら、漁猟により飢えをしのぐことになる。厳しい生存競争により精神の均衡も危うくなりそうだ。この物語はあるいは島でマラリアに罹った姉が朦朧とした意識で思い描いた夢なんじゃないかな……と勝手に解釈しながら観た。
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●お知らせを。N響ホームページにスラットキン指揮の11月定期および大阪公演について、聴きどころを寄稿。大阪公演は東京のBプロと同じくヴォーン・ウィリアムズの交響曲第5番がメイン。