October 28, 2022

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団とムストネン

ヘルベルト・ブロムシュテット NHK交響楽団
●27日はサントリーホールでヘルベルト・ブロムシュテット指揮N響。95歳になったブロムシュテットが来日して指揮をする。それだけでも驚嘆せずにはいられない。ただ、常人離れした壮健さを誇るマエストロにも時は流れている。今回はコンサートマスターやソリストに支えられて楽員と一緒の入退場で、負担を最小限にとどめる形に。椅子に座っての指揮。
●プログラムはグリーグのピアノ協奏曲(オッリ・ムストネン)、ニールセンの交響曲第3番「広がり」(ソプラノに盛田麻央、バリトンに青山貴)。前半のグリーグはまれに聴く怪演。久々に見たムストネンはメガネをかけている。高い椅子を用いて、大きな体躯で高々と上げた手を高速で振り下ろしながら、独特のタッチで鍵盤を叩く。もともとムストネンのピアノはレガートを忌避して、点描みたいなタッチで旋律線を浮き上がらせる特異なスタイルだが、それがさらに進化しているというか暴走しているというか、もはや自由自在。その場の感興に任せたようなエキセントリックなフレージングやダイナミクスを連発。打鍵は強力なのでダイナミクスの幅は広いのだが、大きく振りかぶってからの弱音がうまく鍵盤にヒットしなかったりする。でも、ムストネンの側には首尾一貫したロジックがあっての作品解釈なのだろう。一部、ピアノの音がひずんでいて、強烈なうなりが発生しているのだが、前夜も同じ具合だったようなので、これも狙いがあってのことなのか。結果、グリーグとは思えないほど巨大な音楽が現出して、荒ぶるリリシズムみたいなものが伝わってくる。終楽章の異様な熱気はほとんど魔術的。ムストネンの意図をどれだけ受け止められたのか自信がないが、忘れがたい体験になった。アンコールにヘンデル「調子のよい鍛冶屋」。本編もアンコールもずっと楽譜を譜面台に置き、自分でめくる方式で吉。
●前半でブロムシュテット翁が霞んでしまうよもやの展開だったが、本来のお目当ては後半のニールセンの交響曲第3番「広がり」。ブロムシュテットも身振りは格段に小さくなってはいるが、最初の一音から引き締まった強烈なフォルテ。この作品ならではの大らかで力強い喜びにあふれた演奏を堪能。第4番「不滅」以降の交響曲とは違った健やかな自然賛歌、人間賛歌の音楽で、ひなびた楽想がたまらなく魅力的。最後はブロムシュテットのソロ・カーテンコールが2回。
●これで今月のマケラ指揮パリ管、ダウスゴー指揮都響、ブロムシュテット指揮N響による「勝手に北欧系指揮者フェスティバル」はおしまい。充実の3公演。