●10日は東京芸術劇場で芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.5 阪田知樹×髙木竜馬。ふたりの気鋭の共演ということもさることながら、リスト対タールベルクの「象牙の戦い」に触発されたプログラムがおもしろい。阪田の発案に髙木が応えたそう。前半はタールベルクとリストのソロの作品が交互に登場。タールベルクの2つのノクターン作品35より第1番「大夜想曲」嬰ヘ長調(阪田)、リスト「愛の夢」第3番(髙木)、タールベルクのロッシーニ「エジプトのモーゼ」の主題による幻想曲(髙木)、リストのベッリーニ「ノルマ」の回想(阪田)。後者2曲が超絶技巧の大曲で壮絶。ヴィルトゥオジティはある種の過剰さと結びついたときに快感をもたらすものだと実感する。特に阪田による「ノルマ」の回想は鮮烈で、これでもかというくらいのテクニシャンぶりを発揮。絢爛たるロマンティシズムにくらくらする。技巧の冴えだけではなく、客席を巻き込んで熱狂を起こすオーラがある。驚嘆。
●後半は2台ピアノ。まず後半冒頭に本日のプログラムについてのトークがあって、これもよかった。リスト(一部タールベルク、ヘルツ)の「ヘクサメロン」(ベッリーニ「清教徒」の行進曲による華麗な大変奏曲)と、リストの2台ピアノのための「悲愴協奏曲」。最後の「悲愴協奏曲」はそれまでの作品とは毛色が異なり、完全にロ短調ソナタと同様の世界で、深淵を覗きこむような音楽。重量級の作品が続いたので、アンコールにはベートーヴェン~リスト編の七重奏曲変ホ長調(ピアノ連弾版)より第3楽章テンポ・ディ・メヌエット。充実の一夜。
November 11, 2022