●これは驚いた。三浦淳史さんが書いたイギリス音楽に関するエッセイや楽曲解説を集めた一冊、「英国音楽大全」(音楽之友社)が刊行された。日本のイギリス音楽受容に決定的な功績を残した三浦先生(と言いたくなってしまう)だが、亡くなったのは1997年とずいぶん前の話。著書はいずれも品切で、復刊することもないだろうと思っていたら、400ページを超える堂々たるハードカバーの新刊が登場。帯に「三浦淳史没後25周年&ヴォーン・ウィリアムズ生誕150周年記念」と記されており、この機を逃すともうチャンスはないという編集者の意気込みが伝わってくる。インターネットもなにもなく、英語で書かれた情報へのアクセスが今とは比較にならないほど難しかった時代、日本にイギリス音楽の魅力を伝えるにあたってどれだけ三浦先生が頼りになる存在だったか……。ワタシ自身も大昔、「レコ芸」編集者時代にずいぶんお世話になった。一頃は毎月、原稿取りにうかがって、じっくりとお話をする機会があったのだが、駆け出しだった自分には経験が絶対的に不足しており、話し相手としても物足りない若造だったはず。にもかかわらず、とてもよくしていただいた。まだ手書き原稿の時代で、三浦先生の原稿は少しユニークだった。カクカクとした筆跡だが読みやすく、そしてときどき段落ごとにペンの色が変わっていたりして、カラフルだったような記憶がある。
●で、今回の「英国音楽大全」、エッセイをいくつか読んでみて、改めて驚嘆したのは、文章のうまさ! 当時から言われていたことではあるけど、今ならその価値がずっとよくわかる。もうむちゃくちゃうまい。とても簡明で滑らかなのに、文体に独自の味わいがある。こんな文章を書ける人、今だれかいるだろうか。内容に関して情報が古びている部分は当然あると思うが、文体はまったく古びていない。今読んでもみずみずしい。
November 16, 2022