●20日はサントリーホールでジョナサン・ノット指揮東響のリヒャルト・シュトラウス「サロメ」(演奏会形式)。こんな「サロメ」は聴いたことがないという壮絶さ。終演時の客席の湧きあがりがコロナ禍以降久しぶりの大波で、やっぱりこの雰囲気はいいなと思った。
●まず歌手陣がミラクル。アスミク・グリゴリアンのサロメを筆頭に、ミカエル・ヴェイニウスのヘロデ、トマス・トマソンのヨカナーン、ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーのヘロディアスと主要四役がすべてその役柄にふさわしい。サロメが強靭さと可憐さを兼ね備えていて、本当にサロメ。P席上方に登場したヨカナーンの威厳、深くまろやかな声。演出監修としてトーマス・アレンが加わっているが、以前のモーツァルトと違って舞台上が楽員で埋め尽くされており、ほとんど演技のためのスペースがない。それなのに舞台を観ている感覚があるというマジック。特にヘロデが歌い出すとたちまちそこはユダヤの宮殿となりドラマが立ち上がる。なんというか、次元の違う歌手陣を目のあたりにした感。
●そしてオーケストラが凄まじい。ノットの指揮のもと、うねり、咆哮する。「7つのヴェールの踊り」でサロメになにをさせるのかと思っていたら、歌手たちはみんな退出してオーケストラだけになる。ノットとオーケストラによるスリリングな狂熱のダンス。劇場のピットでは決して聴くことのできないシンフォニックなサウンド。こうして聴くと、「サロメ」って「アルプス交響曲」とよく似てる、順序は逆だけど。なんだか風もよく吹いてるし。
●シュトラウスの音楽にはしばしば笑いの要素があると思うんだけど、「サロメ」はユダヤ人たちの神学論争の場面が可笑しい。「神を見たのは預言者エリアが最後」「いや、それは神の影にすぎないのでは」……とサロメそっちのけで5人で延々と答のない議論をする場面。洗練されたコントだと思った。
November 21, 2022