●さて、ワールドカップはベスト8が出そろった。ラウンド16のモロッコ対スペイン戦は、延長戦まで戦って0対0。PK戦になって、なんと、スペインは3人連続失敗して大会を去ることになった。PK戦といえばニッポンもこれでクロアチアに敗れたわけだが、スペインのルイス・エンリケ監督は試合前に「選手たちに大会に向けてPKの練習を1000本するように命じてある」といい「PKはクジではない。練習すればうまくできる」と豪語していたという。それでもスペイン代表の名手たちが全員外してしまうのがPK戦。ルイス・エンリケ監督の発言こそが、逆説的にPK戦はクジであることを示しているようにも思う。
●しかも、なにがカッコ悪いかといえば、ルイス・エンリケ監督は延長戦の終盤で途中交代で出場していたニコ・ウィリアムズを下げて、わざわざPK戦要員としてパブロ・サラビアを投入していたのだ(そして彼は一人目に蹴って失敗した)。ニコ・ウィリアムズはチャンスを作っていただけに、この策はなんとも間が悪い。そしてニコ・ウィリアムズはもう監督を信頼しないだろう。PK戦について確実に言えることは、統計的に先攻が明白に有利であるということくらい。
●で、試合内容だが、モロッコは5バックこそ敷かなかったものの、ニッポン対スペイン戦を参考にしたかのような戦いぶりだった。試合序盤からスペインにボールを持たせて、自陣にブロックを敷いて、粘り強く守りながらカウンターのチャンスを狙う。ボール支配率もパスの本数も成功率もスペインが圧倒的に高かったのだが、実際には数字とはうらはらに五分の戦いだと感じた。というのも、スペインに決定的なチャンスをクリエイトする力が不足しており、むしろモロッコのほうが質の高いチャンスを作っていた。120分で、スペインの枠内シュートはセットプレイからの2本だけ。同じパスサッカーをしていると言っても、かつてのシャビやイニエスタがいた「ティキタカ」全盛期とはだいぶ違っている。内容的にはニッポン戦よりも低調だったかも。
●これでアフリカ勢が一か国だけベスト8に残った。もっとも「アフリカ勢」という呼び方にどれだけ意味があるかとは思う。4年前のワールドカップ2018ロシア大会テレビ観戦記にも書いたことだが、アフリカのヨーロッパB化が進んでおり、アフリカといってもヨーロッパの育成組織の出身だったり、そもそもヨーロッパの生まれや育ちだったりする一方、ヨーロッパの主要強豪国はアフリカにルーツを持つ最高の選手たちを代表選手に迎えている。象徴的だったのは、グループステージでのスイス対カメルーン戦。スイス代表のエンボロがゴールを決めた瞬間、ぐっとこらえて歓喜のポーズを自制した。この選手のことを知らなかったけど、なにが起きたかはすぐに察した。エンボロはカメルーン生まれの選手なのだ。子供の頃にフランスに移り、その後、スイスで暮らしている。スイスとカメルーン、どちらの代表になることもできただろうが、スイス代表を選んだ。そして、大舞台で母国と対戦することになり、決勝点となるゴールを決めた。ニッポン代表の選手たちがよく言う「国を背負って戦う」という概念がここではかなり複雑化している。
●ベスト8の対戦カードはクロアチア対ブラジル、オランダ対アルゼンチン、モロッコ対ポルトガル、イングランド対フランスに決まった。モロッコはスペインを破って、さらにポルトガルと対戦するのがおもしろい。この勢いで優勝しないだろうか。異例づくめのカタール大会だけに「初優勝国」が誕生するのではないかと期待している。ちなみにモロッコ代表を大会前まで率いていたのは、かつてニッポン代表監督を解任されたハリルホジッチで、主力選手との確執から今年8月に解任された。それでレグラギ新監督が快進撃をしているわけで、どうにもハリルホジッチという人はついていないと言うべきなのか、それともそうなってしまう必然があると考えるべきなのか……。
モロッコ 0(PK3-0)0 スペイン
娯楽度 ★
伝説度 ★★★