●20日は東京オペラシティリサイタルホールで「B→C バッハからコンテンポラリーへ 247 上野通明(チェロ)」。昨年のジュネーヴ国際コンクール優勝者による無伴奏リサイタル。パラグアイに生まれ、幼少期をスペインのバルセロナで過ごしたという経歴の持ち主。プログラムが魅力的で、前半にタヴナーの「トリノス」、クセナキスの「コットス」、バッハの無伴奏チェロ組曲第6番、後半に森円花「不死鳥」(上野通明委嘱作品、世界初演)、ビーバーの「ロザリオのソナタ」から「パッサカリア」、ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番。バッハと現代曲を並べただけではなく、プログラム全体に「祈り」というテーマが緩やかに流れ、楽曲間にも有機的なつながりが感じられるのが吉。
●最初のタヴナーは宗教家然とした芸風が敬遠しがちな作曲家なのだが、聖歌風の静謐簡潔な祈りの音楽。続くクセナキス「コットス」が圧巻。神話上の怪物が題材となっているだけにゴツゴツした手触りの鬼のような難曲と思いきや、鮮やかなヴィルトゥオジティで、ほとんど滑らかといっていいほどの雄弁さ。すっかり手の内に入っているようで、聴き手を強烈にひきつける。バッハは若々しい勢いのある演奏。後半のビーバーもそうだが、モダンなスタイルによる大らかな歌にあふれた表現。新作の森円花「不死鳥」は予想以上にしっかりと尺のある聴きごたえのある作品で、背景に抽象的な模様が変化する映像が投影され(美術:Sao Ohtakeとのみクレジット)、音楽と連動する。無伴奏チェロの作品で「鳥」題材とくれば、カタルーニャ民謡〜カザルスの「鳥の歌」を連想せずにはいられないわけで、現在形の「平和への希求」を自然と読みとる。時折ドシン!と踏み鳴らされる足音が衝撃的。ブリテンの無伴奏チェロ組曲第3番は複数のロシアの主題が用いられた作品。ビザンツ聖歌をキーワードに冒頭タヴナーと呼応するプログラムの妙。アンコールはなし。
December 21, 2022