●ところで今季からFCバルセロナの胸スポンサーがSpotifyになっている(その前は楽天だった)。胸スポンサーだけではない。Spotifyはカンプ・ノウ・スタジアムのネーミングライツも買った。上の試合ハイライトでも会場名が「Spotifyカンプノウ」と呼ばれている。練習着、プレスルーム、ミックスゾーンにもSpotifyの名前が表示されるという。胸スポンサーの契約額は一部メディアによれば年間6000万ユーロ程で4年契約というから総額2億4000万ユーロ、日本円にすると340億円ほど。カンプノウのネーミングライツはもっと長期にわたり、少なくとも12年間は「Spotifyカンプノウ」と呼ばれるのだとか。こちらも総額数百億円規模になるそうで(参照記事その1、その2)、音楽配信サービスがここまで巨額のスポンサー契約を結ぶようになったことに驚かずにはいられない。AppleやAmazonのような巨大IT企業ではなく、スウェーデンの音楽配信専門の企業が、あのバルセロナの胸スポンサーなのだ。音楽配信の黎明期にこんな未来を予測できた人がいただろうか。
●このスポンサー契約については昨年の春頃に発表されたもので、ぜんぜん新しいニュースではないのだが、音楽配信のような趣味性の強いサービスが、やはり趣味性の強いサッカーのスポンサーになっていることに不思議な気分を感じる。つまりバルセロナ好きにとっては問題ないが、たとえばアンチ・バルサのレアルマドリッド・ファンは「じゃあ、オレはSpotifyは止めて、Appleを使うぜ」となったりしないのだろうか。
●バルセロナの胸スポンサー戦略は本当に巧みだと思う。かつてこのクラブは胸にスポンサーを入れないことを誇りとしていた。自分たちは特別な存在で、ソシオと呼ばれる会員組織に支えられているから、ここにスポンサー名を入れないのだ、と。しかし現代のサッカー界において、そんなおとぎ話は持続不可能だ。マネーなくして栄光なし。そこで、バルセロナはまず胸にUNICEFのロゴを入れた。これはUNICEFからお金をもらうのではなく、UNICEFにお金を寄付してロゴを入れたんである。UNICEFに寄付するためなら、美しい伝統がなくなっても仕方がない。みんな納得できる。でも次に何が起きるかは、だれもが察していた。5年間ほどUNICEFにお金を払った後、今度はなりふり構わず回収モードに入る。カタール財団、カタール航空、楽天と巨額のスポンサー契約を結び、今季からはSpotifyだ。もしUNICEF時代がなかったら、かなり生臭い感じになっていたわけで、あの「お金を払って胸スポンサーを入れる」というアイディアは本当に秀逸だったと思う。
January 25, 2023