●22日はサントリーホールでアンナ・ラキティナ指揮読響。近年は若い指揮者が増えた。女性指揮者もぜんぜん珍しくない。でも「若い女性の指揮者」となると、かなり少数派。華奢で小柄なラキティナが指揮台に立つと、新しい時代の到来を感じる。ラキティナはウクライナ人とロシア人の両親を持ち、現在はボストン交響楽団のアシスタント・コンダクターを務める。すでにシカゴ交響楽団やニューヨーク・フィル、パリ管弦楽団、LAフィルを振っているそう。指揮の動作は明快でスムーズ。七分袖の指揮者は珍しいが、腕の動きの視認性を高めるためなのだろうか。弦楽器は通常配置だが上手側にチェロ。
●プログラムはエレナ・ランガーのオペラ「フィガロの離婚」組曲(日本初演)、ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」(ルノー・カプソン)、チャイコフスキーの交響曲第1番「冬の日の幻想」。本当だったらルノー・カプソンは、ミュンヘン・フィルらが委嘱したエスケシュの新作ヴァイオリン協奏曲を日本初演する予定だった。が、昨年の欧州での世界初演が延期されてしまい、東京の公演を世界初演とすることができず、ベルクに変更された次第。
●一曲目のエレナ・ランガーの「フィガロの離婚」組曲、これは曲名がすでにオチみたいな曲だが、もとになったオペラがちゃんとあって、既存の同名戯曲とボーマルシェ3部作の戯曲「罪ある母」(←ぶっ飛んだストーリーにより一部で有名)をもとに台本が書かれているのだとか。曲自体はさまざまなスタイルのごった煮みたいな楽しい曲なのだが、なにせ元のストーリーが未知なので、もどかしい気分は残る。ルノー・カプソンのベルクはたっぷりと潤い豊かな音色。第1楽章は速めのテンポで、まるで踊るかのように弾く。内省的で思索的な作品のように思っていたけど、こんなに輝かしく弾けるのかと感心。アンコールはグルックの「精霊の踊り」。これでもかというくらいに朗々と美音を鳴らす。
●後半のチャイコフスキーがラキティナの本領発揮なのだろう。整然とした端正なチャイコフスキー。音楽の流れが自然で、ぜんぜん土臭い感じがない。すっきりしすぎて薄味といえばそうなんだけど、バランスのとれた爽快な響きで、清潔感がある。また聴いてみたくなる。
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February 24, 2023