●久々に東劇でMETライブビューイング。演目はジョルダーノ「フェドーラ」新制作。デイヴィッド・マクヴィカー演出、ソニア・ヨンチェヴァの題名役、ピョートル・ベチャワのロリス・イパノフ伯爵、マルコ・アルミリアート指揮。「アンドレア・シェニエ」と並ぶジョルダーノの代表作だが、なかなか観る機会はなく、METでも四半世紀ぶりの上演だとか。ロシアの皇女フェドーラが婚約者を暗殺されてしまうが、パリでその犯人であるロリスと恋に落ちる……。ロマンスとミステリの融合みたいなストーリー。第1幕がロシア、第2幕がパリ、第3幕がスイスと舞台が移り変わっていくあたりトラベルミステリー風でもあるのだが、異国巡り的なエンタテインメント性も狙いとして込められているのだろう。ゴージャスなので「007」的なノリもなくはない。
●が、最大の魅力はジョルダーノの音楽。1898年初演とそこそこ新しい作品でもあって、冴えたオーケストレーションが魅力。そして主役級ふたりのテンションマックスの熱唱がすさまじい。2幕の終わりなどこれでもかと盛り上げてくれる。
●いろいろと趣向に富んだ作品なのだが、特におもしろかったのは、第2幕でパリのサロンを舞台にショパンの後継者とされるポーランド人ピアニストが登場して、舞台上のピアノでショパン風小品を弾くところ。ここで本物のMETのピアニストがショパンの後継者に扮装して登場して弾くのが楽しい。しかもこの優美なサロン音楽を背景に、主役ふたりは緊迫のドラマをくりひろげており、その前景と後景の鮮やかなコントラストが秀逸。
●と、ジョルダーノの才知が伝わってくる作品だが、もうひとつ人気が高くない理由もわかる。まず歌手への要求が過酷。題名役は出ずっぱりで高音も低音も求められる。主役ふたりはかなりパワフルな歌唱が続く。それと、ストーリーはよいと思うのだが、プロットがうまく整理されていないと感じる。もう少し効果的な伏線の張り方があるのでは。台本がもっと練られていたら、プッチーニの主要作に負けない人気作品になっていたかも。
March 6, 2023