●6日はサントリーホールでインゴ・メッツマッハ―指揮新日本フィル。かつて新日本フィルでコンダクター・イン・レジデンスを務めたメッツマッハ―が久しぶりに帰ってきた。最後に同コンビを聴いたのはいつだったか……2015年のヴァレーズか? 一頃の新日本フィルはメッツマッハー、ハーディング、ブリュッヘンらが指揮台に登場して、ずいぶんと話題を呼んでいたのを思い出す。
●プログラムはウェーベルンの「パッサカリア」、ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」(クリスティアン・テツラフ)、シェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」。新ウィーン楽派の3人がそろい踏み。とはいえ官能性豊かな作品が並ぶスーパー・ロマンティック・プログラムでもある。メッツマッハーはすべて指揮棒なし。前半、テツラフが弾いたベルクのヴァイオリン協奏曲は、つい先日ルノー・カプソンのソロでも聴いたばかり。カプソンが豊麗なら、テツラフは端然。鋭利でひりひりとした手触りがある。クリアで硬質な美音に聴きほれてしまう。ソリスト・アンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番よりアンダンテ。滋味豊か。
●大編成のシェーンベルクの「ペレアスとメリザンド」では、うねりを伴う音の奔流に圧倒される。濃厚だけれど見通しのよいサウンドは、かつての同コンビの名演と同様で、聴きごたえ大。メーテルリンクの原作に寄り添った音楽なので、物語を知らないとなじみづらいと思うのだが、幸いにして同時期に書かれたドビュッシーのオペラがあるので、そちらで親しめるのがありがたいところ(原作に向ける視点の違いはあるにせよ)。この曲、高いところから落ちてゆくみたいな下行音型が目立つと思うのだが、「ペレアスとメリザンド」ではよく物が落ちる。メリザンドは最初のゴローとの出会いで王冠を落とすし、ペレアスと遊んでいて指輪を落とすし、塔の上からは長い髪を垂らす。「ペレアスとメリザンド」は位置エネルギーが悲しみに変換される話だと思う。
●終演後は拍手が鳴りやまず、メッツマッハーのソロ・カーテンコールが実現。この曲でソロ・カーテンコールは立派。新日本フィルもカーテンコール時の撮影がOKになっている。
March 7, 2023