●書きもらしていたが、少し遡って1日、東京・春・音楽祭の若い音楽家による「仮面舞踏会」を聴いたのだった。会場は東京文化会館。ムーティと東京春祭オーケストラによるすばらしい「仮面舞踏会」があった後、それとは別に、指揮者と主な歌手陣を変更して、若い音楽家による「仮面舞踏会」が上演された。ムーティによる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3」での指揮受講生4人が本公演と同じオーケストラを指揮する。当初の予定では抜粋だったのが、全曲を上演することに。で、指揮受講生4人というのが、澤村杏太朗、アンドレアス・オッテンザマー、レナート・ウィス、マグダレーナ・クライン。ムーティによれば、4人の順番は「仮面舞踏会」の物語と同様にくじ引きで決めたとか。笑。歌手陣はリッカルドに石井基幾、アメーリアに吉田珠代、レナートに青山貴、ウルリカに中島郁子、オスカルに中畑有美子。
●同じオペラを4人の指揮者がリレーで振る。普通はありえないから、非常に興味深いものになった。なんといってもアンドレアス・オッテンザマーという世界最高峰のクラリネット奏者がここで受講生のひとりとして出てくるのが新鮮。もちろん、なんの特別待遇もない。舞台の下にムーティ御大がにらみを利かせるこの状況では、オッテンザマーですらひとりの若者にすぎない。
●4人それぞれのキャラクターはもちろんあったと思うが、なにしろムーティの教えがオーケストラに浸透した状態で振るので、どうしたってムーティの解釈をなぞる形にはなる。受講生の立場で指揮をするのだから、これはしょうがない。たとえば最後のマグダレーナ・クラインだと、ムーティが刻印したティンパニの痛烈打のあたりから、指揮者がオーケストラに火をつけたというよりは、オーケストラが指揮者に火をつけたような感触。棒の振り方がもっともきれいだったのはレナート・ウィス。4人それぞれにとって得がたい体験だったはずで、これから大きな飛躍を果たすことだろう。
April 13, 2023