●19日は杉並公会堂小ホールで低音デュオ。バリトンの松平敬、チューバの橋本晋哉という異色のデュオで、これが第15回演奏会。この継続性はすごい。プログラムは前半に山根明季子「水玉コレクションNo.12」(2011)、川上統「児童鯨」(2016)、鈴木治行「沼地の水」(2009)、後半に山本和智「高音化低音」(2017)、まとばゆう「色とりどりの花」(2023)委嘱初演、川崎真由子「低い音の生きもの」(2023)委嘱初演、山根明季子「大量生産」(2023)委嘱初演。全体として「低音」であることにあらためてフォーカスした作品が多く、また比較的近づきやすい曲がそろっていたという印象。多様なアイディアに彩られ、凝縮度が高い。
●川上統「児童鯨」は小型のクジラ感がよく伝わってくる。児童鯨という言葉を知らなかったのだが、クジラとイルカは生物学的に区別されないものなので、むしろイルカ的なイメージで聴く。鯨類的感情表現の豊かさ。鈴木治行「沼地の水」は自己言及的な作品。今鳴っている音が言語化され、歌になる。山本和智「高音化低音」はさまざまな小道具を用いた楽しい曲。大小の銅鑼の使い方がおもしろい。最後のチューバの最高音(?)は意表を突かれて笑った。まとばゆう「色とりどりの花」は花の名前が次々と歌われるポップソング。
●川崎真由子「低い音の生きもの」は詩人の小笠原鳥類とのコラボレーション。最初こそサンショウウオとかシーラカンスとか、いかにも低音っぽいイメージの動物が出てくるが、だんだん意味の把握できない文で埋め尽くされる。意味があるかもしれないし、ないのかもしれない。最後が「ウグイスの鳴き声は、ヴォツェック」。そういえばベルク「ヴォツェック」のおしまいで子供が「ホップ!ホップ!」って歌うのって、鳥みたいだよなあと思ったのだが、よく考えたらウグイスは「ホー、ホケキョ」だから違うか。よくわからない。山根明季子「大量生産」はインパクト大。小さなタイルを延々とコピペして敷き詰めたような反復的な音楽で、歌手が片手をあげる、横を向く、足踏みをするなどの動作をする。ポップな要素と、ぜんぜんポップじゃない低音デュオのミスマッチ感がおもしろいなと思って聴きはじめるのだが、予想外に執拗に「大量生産」が続き、どこかの時点でおもしろさは不気味さに変わる。キュートだと思ったらグロテスク。
April 20, 2023