●5日はサントリーホールのブルーローズでエリアス弦楽四重奏団のベートーヴェン・サイクル。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲をシリーズで演奏するチェンバーミュージック・ガーデンの名物企画。今年はイギリスを拠点とするエリアス弦楽四重奏団が登場。初めて聴く団体だけど実績は豊富で、ウィグモアホール・ライブ・レーベルからベートーヴェン全集他がリリース済み。
●この日はシリーズ二日目にあたる公演で、プログラムは弦楽四重奏曲第2番、同第11番「セリオーソ」、同第13番(フィナーレは短いアレグロ)。このシリーズ、16曲の弦楽四重奏曲をどう振り分けるかが問題だけど、エリアス弦楽四重奏団は各公演に初期・中期・後期作品を分散させる方式。で、第13番はフィナーレに「大フーガ」と短いアレグロの2バージョンが考えられるわけだが、両方を演奏する。この日は短いアレグロで終わる第13番。
●演奏は非常にバランスがとれていて、練り上げられたベートーヴェン。このシリーズ、毎年必ず聴いているわけではないけど、自分がこれまでに聴いた中では屈指の好感度。4人が同じ絵を描くためにぴたりとひとつになっているけど、個が埋没していない。切れ味の鋭さは必要十分で、キレッキレのエクストリーム・ベートーヴェンで驚かせようという方向性ではなく、無理のない音楽。なおかつ、詩情豊かで、目立たないフレーズでもみずみずしい。25年もいっしょに演奏していてこんなにフレッシュさを保てるものかと感心(メンバーは途中でふたり交代しているみたい)。妙に衒学的な空気もないし、ユーモアもあり、全体としてポジティブなエネルギーにあふれているのが吉。
●白眉はやはり第13番か。後半の頭で第1ヴァイオリンのサラ・ビトロックがマイクを持って、簡潔に作品解説をしてくれた。全6楽章がそれぞれまったく違った性格の音楽からできており、楽章の長さもまちまちだけれど、メロディにはつながりがあって、第2楽章以降の各楽章のおしまいの音が次の楽章のはじまりの音になっている、またフィナーレにはふたつのバージョンがあり、大フーガ付きのバージョンは後日の公演で演奏することなどが述べられた(やさしい英語でゆっくりしゃべってくれた)。まあ、両方のフィナーレを聴ければ理想的なんだけど、残念ながら「大フーガ」の14日は都合がつかず、この日の短いアレグロを選んだのだった。できれば「大フーガ」を聴きたかった……という思いもあったのだが、この日の演奏を聴いて、短いアレグロにあるいくぶんクレイジー風味の痛快さに気づく。単なる「プランB」ではないなと実感。
●おまけ。AIに描いてもらったベートーヴェン(EdgeのImage Creator/DALL-E)。「リキテンスタイン風に」と指示したのではなく、シンプルに「ポップ・アート風に」と依頼したらこうなった。