●9日は国立競技場で、J2リーグの町田ゼルビア対東京ヴェルディを観戦。J2で初となる新しい国立競技場での試合開催。なんと、3万8千人もの観客が集まった。Jリーグによる無料招待1万名や町田の親会社サイバーエージェント関連の来場者4千人という動員もあったのだが、それを差し引いても、とんでもない人数が来場したことになる。日曜夜、しかもJ2で。前座試合があったり、花火が打ち上げられたりして大盛況。
●なにより驚いたのはヴェルディのサポーターの多さ! 町田のホームゲームで、町田が動員をかけているにもかかわらず、場内で熱かったのはヴェルディ側のゴール裏。これは信じがたい光景。かつてゴール裏で閑古鳥が鳴いていた時代(ヴェルディサポの人数がカウントできるくらいだった)を知る身としては、ヴェルディのゴール裏が「老舗」の風格を見せつけて、新興クラブを圧倒する様子など想像もできなかった。
●ヴェルディ側の熱さの理由のひとつに移籍問題もあったと思う。ヴェルディの主力だったバスケス・バイロンがライバルの町田へ移籍してしまったのだ。シーズン中なのに2位ヴェルディから1位町田へ移籍する。本来、ありえない。だが、町田の黒田監督はバスケス・バイロンにとって青森山田高校時代の恩師。両クラブ間に新たな因縁が生まれてしまった。試合開始前の所属選手紹介でバスケス・バイロンがメインビジョンに映されると、ヴェルディ側ゴール裏から壮絶な大ブーイング。さらに黒田監督の紹介でも激しいブーイングが続く。J2以下の試合では両サポーター間でほのぼのしたムードが漂うことも珍しくないのだが、町田とヴェルディの間にそれはない。
●大観衆に押されて、試合の内容もハイテンション。前半は町田がヴェルディを圧倒。攻守の切り替えが早く、プレイ強度が高い。開始2分にディフェンスラインの裏に抜け出したエリキ(元マリノス)がシュート、こぼれ球を藤尾翔太が押し込んで先制。さらに38分、ヴェルディの自陣でのパス回しのミスを突いて、町田がショートカウンター、エリキのアシストから安井拓也が2点目をゲット。町田は無用なリスクを冒さず、相手のミスを見逃さないサッカー。失点の少ない町田に2点をリードされたら、ヴェルディは厳しい、と思ったのだが、後半、ヴェルディは追いついたのだ。ヴェルディの攻撃の多くはサイド攻撃。といっても中央に大きな選手がいるわけではなく、サイドをドリブル突破などでしっかり崩してから中央で決めるのが狙い。選手の足元の技術は高い。73分、宮原和也のクロスに染野唯月が頭で合わせて1点差につめより、83分にふたたびクロスから染野が頭で決めて2対2の同点。町田は守備を固めていたにもかかわらず、ヴェルディの執念が実った。暑さのなか、両者とも力の限りを尽くした好ゲームだったと思う。こんな試合をすれば、まちがいなく観客はまたスタジアムに来たくなる。
●混雑を避けるためにすぐ席を立ったので現地では見ていないのだが、試合終了後、ヴェルディの城福監督は町田ベンチに向かって激高していた模様。DAZNで見ると城福監督が「オレたちはサッカーで勝負するから!」と叫んでいるのがわかる。言わんとすることはわかる。リードしている間、町田の選手たちはやたらとピッチ上に倒れて、時間を空費するのだ。いやいや、ヴェルディの当たりはそんなに強くないでしょ、と思うのだが、よく倒れる。観る側としてはあまり気分はよくないし、アディショナルタイムが長くなるのもうれしくない。中立的な立場で観戦した人はヴェルディを応援したくなったのでは。失点リスクを抑え、相手にボールを持たせて、隙あらばショートカウンターで仕留めようとする町田に対して、ヴェルディはリスクを負ってでも自分たちで仕掛けて、チャンスを作り出す。ヴェルディの甲田英將や新井悠太のドリブル突破は観る人のハートを熱くさせる。黒田監督と町田にはぜひ成功してほしいと願っているのだが、共感を呼んだのはヴェルディだった。
July 11, 2023