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July 13, 2023

NHK100分de名著「ヘミングウェイ スペシャル」(都甲幸治著/NHK出版)

●思うところがあってNHKテキスト「100分de名著」を何冊か読んでいるのだが、このシリーズはすごくいい。番組も悪くないんだろうけど、たぶんテキストはさらによい。「専門家が一般向けにわかりやすく書く」というのは、こういうことなんだなと思う。ちゃんと言い切る。文章内に同業者に向けたエクスキューズを散りばめない。対象物の根っこの部分をまっすぐに伝えてくれる。
●で、特におもしろかったのが「ヘミングウェイ スペシャル」(都甲幸治著/NHK出版)。自分はヘミングウェイで好きな作品と言われたら断然「老人と海」と「移動祝祭日」なんだけど、とてもためになった。たとえば、「老人と海」で、主人公の老人がやたらとジョー・ディマジオの話を出してくるじゃないすか。野球なんか見てないはずなのに、なにかと自分とディマジオを対比させる。それはディマジオの父親が貧しい漁師だったからで、自分を憧れのディマジオに重ねているんだろうな、と思う。でもこのテキストに「ディマジオは本来握るはずだった釣竿をバットに持ち替えて野球をしているのだ。老人はそんなふうにとらえていた節もあります」とあって、なるほど、そちら側から見ることもできるのかと目ウロコ。あと、いつも老人を支えてくれる少年マノーリン。彼のことを「ひと昔前の『理想の奥さん』のような存在」と指摘していて、これも納得。世話を焼いてくれて、自分のことを全面的に尊敬してくれて、なんと都合のよい伴侶なのか。少年とは孤独な老人の脳内に住む空想上の存在なのかと疑ってしまうほど。
●「移動祝祭日」で、ヘミングウェイはガートルード・スタインやスコット・フィッツジェラルドらの恩人を登場させて悪口を言っていて、「自分が世話になった度合が大きい順にひどいことを書いています」。その解釈もおもしろかった。

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