●これは良書。サッカーの監督について記した本はたくさんあるが、その多くはメディアを賑わせる超エリート監督たちについて。が、「サッカー監督の決断と采配 傷だらけの名将たち」(ひぐらしひなつ著/エクスナレッジ)でとりあげられているのは田坂和昭、木山隆之、北野誠、吉田謙、小林伸二、石崎信弘、片野坂知宏、下平隆宏、高木琢也といった「名将たち」。名前から思い浮かぶのは「昇格請負人」だったり「残留請負人」だったりというキーワードだろうか。あるときは成功するけど、あるときは失敗して解任される。そんなことをくりかえしている監督たちで、全般にJ2味の濃い人選なのだが、ここにあがっている人たちはみんな解任されても、すぐに別のクラブから声がかかるような人たちばかり。つまり監督の世界では圧倒的な成功者だ。Jリーグで監督をできるS級ライセンスの所有者は約500名。そのなかでJリーグの監督を任されるのはほんの一握り(さらに外国人監督もライバルになる)。監督という仕事はよっぽど難しいのだと思う。チャンスを与えられる人は少ないし、そこで生き残れる人はもっと少ない。
●これら監督たちが難しい局面で下してきたさまざまな決断に迫ったのが本書。やはりプロフェッショナルの世界なので、話の中身はけっこう重い。選手を入れ替える、戦術を変更するなど、ひとつひとつの決断がどこまで結果に直接的に結びついているか、サッカーでは必ずしも明快ではないと思うのだが、最終的に責任を負うのは監督。選手の生活や将来がかかっているだけに、並大抵の神経ではできないなと感じる。あと、監督という仕事は原則として「失敗して去る」のが常。これもタフな話。どの章も興味深かったが、特にブラウブリッツ秋田で旋風を巻き起こす寡黙で熱血な吉田謙、豪快な現役時代とずいぶんイメージが異なる高木琢也の両監督の章が印象に残った。
July 20, 2023