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July 21, 2023

アラン・ギルバート指揮東京都交響楽団のシュトラウス「アルプス交響曲」

アラン・ギルバート指揮東京都交響楽団
●20日は東京文化会館でふたたびアラン・ギルバート指揮東京都交響楽団。プログラムはウェーベルンの「夏風の中で 大管弦楽のための牧歌」、モーツァルトのホルン協奏曲第4番(シュテファン・ドール)、リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」。あれ、これってもしかして……そう! ベルリン・フィル首席ホルン奏者シュテファン・ドールが、後半の「アルプス交響曲」でもオーケストラのなかで吹いてくれるのだ! なんという大吉プロ。
●ソリストが吹くモーツァルトを脇に置くと、ウェーベルンはシュトラウスとつながっている。夏山登山の前日譚としての牧歌。モーツァルトではぐっと編成を刈りこんでドールと都響の親密なアンサンブル。白眉はやはり後半の「アルプス交響曲」で、期待通りの高解像度による壮麗な音絵巻。さらに熱もあって、大自然に果敢に立ち向かう登山者といった趣。劇的で陶然とした登山体験だった。カーテンコールで舞台上に姿を見せたバンダの人数がすごく多くてびっくり(なんと20名)。そして、やはりシュテファン・ドール・ブーストがばりばりに効いていた。カーテンコールをくりかえした後、楽員退出後も拍手が止まず、アランとドールのふたりが姿を見せるという、珍しいデュオ・カーテンコール。ドールをしきりに称えるアラン。
●今年は「アルプス交響曲」の当たり年。1月に山田和樹指揮読響、4月に佐渡裕指揮新日フィル、パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響、そして今月はアラン・ギルバート指揮都響。大登山ブームだが、同じ山に何度も登っている感触はなく、毎回、違う山に登っている気分。
●それにしてもこの曲、途中で道に迷ったり、嵐のなかで下山したりと、かなりチャレンジングな登山をしている。「お弁当」とか「オヤツ休憩」みたいな楽章がなくてタフである。この曲でいちばんのピンチは、下山の途中で嵐に遭うことではなく、「山の牧場」で憩った後の「道に迷う」だと思う。この人、迷った後に「氷河」に進んで「危険な瞬間」を経て、無事に「山頂」にたどり着くのだが、やはり道迷いしたら来た道を戻るが第一選択肢ではないだろうか。なので「道に迷う」の後はもう一回「山の牧場」に戻って、地図を確認してはどうか。「アルプス交響曲安全版」があるとしたら、曲順は「夜」「日の出」「登山届提出」「GPSアプリYAMAPを起動」「森に入る」~「山の牧場」「道に迷う」「山の牧場」「登山道に復帰」「山頂」……といった具合になるにちがいない。ちなみにヤマケイ文庫の「ドキュメント 道迷い遭難」(羽根田治著)は名著である。何日間も山中をさまよう恐怖体験などが記されており、これを読むと「アルプス交響曲」の迫真性がいっそう増す……かもしれない。