●22日はミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKIが猛暑とともに開幕。開幕公演は今年もジョナサン・ノット指揮東響。プログラムはかなり意外で、チャイコフスキーの交響曲第3番「ポーランド」と同第4番。ノットがチャイコフスキーを振ることが驚き。しかもめったに演奏されない第3番をとりあげるとは。ノットはこれまでに演奏されてきたチャイコフスキーの交響曲の演奏を、そのほとんどが粗暴で騒々しいものとみなしており、「ダイナミックなだけの暴力的なパワーが興奮を作り出すタイプの音楽」を真の音楽とはみなしていない。そこで、今回、東響とともに新たなチャイコフスキー像を作り出そうとしているのだが、となれば、すっかり慣習的な型ができあがってしまっている第4番の前に、手あかのついていない第3番を演奏しようというのはわかる話。
●宣言通り、金管楽器の咆哮で血をたぎらせない抒情的なチャイコフスキー。第3番、作品としては冗長さも感じるのだが、華やかさや軽やかさやを楽しむ。交響曲の終楽章にフーガを用いる例は後の「マンフレッド交響曲」にも見られるけど、どちらも有名曲になっていないのはおもしろいところ。第4番も冒頭から抑制的。たしかに多くのチャイコフスキーの演奏は筆圧が強すぎて、本来の色調が失われているのかもしれない。終楽章もどんちゃん騒ぎにはならず。強い説得力を感じる一方で、たとえばロシアのオーケストラの爆演にもチャイコフスキーの真実があるのでは、という気持ちもどこかに残る。新鮮なチャイコフスキーであることはまちがいないので、今後、第5番、第6番「悲愴」あたりも聴いてみたいもの。
●終演後は拍手が止まず、特に退団する首席トランペット奏者の佐藤友紀さんにあたたかい拍手。舞台にノットがあらわれ、ふたりで喝采を浴びた。客席はスタンディングオベーション。東響はずいぶん顔ぶれが変わってきた。
July 24, 2023