●2日はミューザ川崎へ。フェスタサマーミューザKAWASAKIで出口大地指揮東京フィル。平日昼間の公演だが客入りはしっかり。プログラムはハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」からワルツ、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(清水和音)、ベルリオーズの幻想交響曲。出口大地は2021年ハチャトゥリアン国際コンクール第1位の若手。昨年、東フィル定期に大抜擢された際はオール・ハチャトゥリアン・プログラムだったが、今回もハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」のワルツで幕開け。この「仮面舞踏会」には、夫が妻の不貞を疑って殺すが、実は妻は無実だったというストーリーがあるわけだが(先日からここで話題にしている「オテロ/オセロー」とたまたま共通している)、これは後半の幻想交響曲でふられた芸術家が恋人を殺すというストーリーと呼応している。猛暑の真昼間にドロドロの愛憎劇がくりひろげられるという趣向。しかしサウンドは華麗で爽快。
●チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番では清水和音が風格漂う貫禄のソロ。着実に大きなドラマを組み立てる。超名曲なのに近年は意外とライブで聴く機会が少ないので、改めて作品の魅力に浸る。ソリスト・アンコールにラフマニノフ~ワイルド編の「何という苦しさ」。後半のベルリオーズ「幻想交響曲」は若さと熱量で押すのかと思いきやむしろ端正。ロマン派側から遡って作品を眺めるのではなく、古典派交響曲の延長上にある作品として見つめ直した感。第1楽章、第4楽章のリピートがあったのも形式感の尊重か。白眉は第3楽章。描写性にベートーヴェン「田園」を連想する。オーケストラはよく鳴っており、金管セクションは猛烈。この音圧の強さは意図したものなのだろうか。第4、第5楽章は豪壮な音響で盛り上げた。アンコールにハチャトゥリアンの組曲「仮面舞踏会」よりマズルカ。
●出口大地は珍しいサウスポーの指揮者。左手に指揮棒を持つ指揮者というと、先達はドナルド・ラニクルズ、パーヴォ・ベルグルンドあたりか。
August 3, 2023